伴大二郎は大学に通うかたわら、日本古武道鹿島神流第十八代師範国井広之の高弟として、日々激しい修行に身を打ち込んでいた。その大二郎がある日アルバイト先の貴志実業で、暴れ込んだ二人の与太者を軽くねじ伏せ追い払ったことから、大二郎は貴志社長にすっかり惚れこまれてしまったが、大二郎の男らしい姿は貴志社長の一人娘多美子の瞳にも焼き付いて離れなくなった。しかし、大二郎には神崎あいという愛する女性がいた。あいは病床に臥しきりの母と娘の心細い二人暮らしを、か弱い女手一つでけなげにも守っていた。生活の苦しみも、大二郎の力強い愛情に優しく支えられて、彼女は幸福に包まれていたのだ。だが、愛する人に出来るだけ生活の苦しさを云うまいとするあいの女心は、思いがけぬ不幸を生んでしまった。必要に迫られてした借金が嵩み返済できなくなり、その代わりに芸妓に身を売れと強要されたのだ…。