従来の人々の窺い知れなかった話題の人・皇太子殿下の御生活と側近学生の恐るべき暗闘を描く異色問題作。
皇太子が籍を置く学習院高等科三年は特殊な学年だ。千谷吉彦は、殿下を勢力争いや虚栄の道具としか考えない殿下の学友たちを軽蔑し、反発していた。吉彦の親友・岩瀬撤は殿下の学友の中では毛色の変ったバンカラ派で、吉彦と同じように殿下をなんとか人間らしい皇太子に戻そうと考えていた。腰下が悲しい人物のように思えてならなかったのだ。吉彦と岩瀬は、こういう空気に反発するかのように自由に振舞った。叔父と別れた叔母にあたる朋子と交際していた吉彦は、その関係を両親に叱責されればされるほど、反抗した。岩瀬にも恋人がいたが、彼は恋人については語らなかった。修学旅行が奈良に決まると、新聞はそれを報じ、通過駅では日の丸の波と万歳三唱が彼等を迎えた。殿下からの信任の厚い京極や舟山たちが、殿下の傍で新聞社のフラッシュを浴びている姿も、吉彦と岩瀬には鼻持ちならない。京極らが殿下を囲んでトランプをしていたある夜、トランプの間から落ちた一枚の写真に殿下は眼をとめた。皇太子と鳥羽頼子が御一緒の写真だった。ある日、岩瀬と吉彦は乗馬で遠乗りを企て、殿下と鳥羽頼子とを会わせようと試みた。殿下からの招きと聞いた鳥羽頼子は、承諾した。吉彦は、徳大寺侍従に殿下の遠乗りを許可するよう迫るが…。