川上哲治は熊本県人吉に生まれた――大村小学校で野球を始めた哲治は、寒風吹きすさぶ河原での練習中、部長の土肥先生に認められ上級生を尻目に正選手を言い渡された。しかし、喜び勇んで帰って来た哲治の家から、今しも家財道具が運び出されようとしていた。人の好い父の伊平次が事業に失敗して家屋敷を取られることになってしまったのだ。哲治は家計を助けるため、父に内緒で新聞配達をしながら練習を重ね、熊本少年野球大会でピッチャーとして大活躍を収めた。その後、熊本工業の野球部後援会長をしている医師の安西が土居と伊平次を訪ね、哲治を是非熊本工に入れるよう頼み込んだ。伊平次は一も二もなく賛成だったが、家の体面を気にする哲治の母のツマは難色を示す。自分のことで言い争いをしていることを知った哲治は、両親の前で「父さん、俺、熊工には行かん。ずっと母さんとおる」と宣言するが、哲治の本心を知ったツマは哲治に熊工へ行けと言うのだった…。