昭和二十一年の夏。北海道の室蘭に住む花田宇一郎の小さな家に、元関取の男岩と名乗る人物が尋ねて来て、長男の勝治を是非相撲取りにさせてくれと頼んでいた。巡業に来ている二所ノ関部屋の大ノ海が勝治を見込んだのだという。勝治は沖仲仕をしていて力が強く三人分は働いていたが、相撲取りになって出世をしたかった。彼は素人相撲では負けたことがなく、少なからぬ自信があったからだ。だから大ノ海に入門を進められたとき、出来ることなら直ぐにでもまわしを締めたかったのだ。しかし、勝治には七人の弟と妹がいた。もし、彼が東京へ行ってしまったら彼らが苦労するのは目に見えていた。だから、両親には相撲取りにはなりたくないと言って断った。やがて本場所が始まり、期待の新弟子が初日早々けがをして悄然と部屋に戻って来た大ノ海の前に勝治が待っていた。勝治の本心を知る母親のきえが渋る父親の宇一郎を説き伏せたのだった。二所ノ関部屋後援会長の小橋老人から“若ノ花”と四股名をつけられた勝治は翌日から火の出るような稽古を開始した。