陽が沈み、夜霧に巷の灯がともる頃―上野駅裏の交番はてんやわんやの忙しさ。西郷さんの銅像が見下ろすこの公園付近はポン引き、家出娘、タカリからアベック、愚連隊、酔っ払いまでが世話を焼かせるからである。情にもろいが元気一杯、若さに溢れる太田健吉は新米巡査。この交番には他に、美男子でチャッカリ屋の鈴木巡査、気の落ち着かぬ大食いのウッカリ屋山口巡査、気が弱く涙もろい高松巡査、歌のうまい曽根巡査がいる。お人好しの上役で巡査組長の山村はおこりん坊だが、その娘の美しい京子は彼らにとって、甘い青春の歓びを運んでくる恋の女神である。ある日、交番では山口巡査が本署から電話で大目玉をくらっていた。交番備え付けの自転車を盗まれたからである。昇級試験を前にして、この大失敗に山口巡査はションボリして口を利く元気もない。これを見た鈴木巡査はさすがにチャッカリ屋、得意の悪知恵を働かせて、若い健吉に責任を取ってもらおうと名案を考え出した。