祭囃子も賑やかな木曽路の峠茶屋を舞台に、義理と人情のやくざの世界を描いた娯楽股旅物の決定版。
見晴らしのいい峠茶屋―風に乗って聞こえてくる祭囃子の音。いつもは淋しいこの峠の茶屋も、この祭りをあてこんでの商人達で賑わっている。その茶屋の奥まった所にさっきから寝ころんでいる一人の男、雨合羽に三度笠、一本刀を枕元に置いたところは、どう見ても旅鴉。云わずと知れたやらずの藤太郎というやくざ者、三年前に身内のいざこざから親分殺しの汚名をきせられてしばらく草鞋をはいたがおふくろ恋しさの帰郷であった。江戸にいる頃、一宿一飯の義理から人を殺め、今は三筋町の辰五郎という目明しに追われている身の上である。ひょんな事からおつやという女を助けるが、このおつやに絡んでいたのが、素の目の目蔵一家の若い者。この目蔵という男は親分の生きている頃、同じ身内で代貸をしており、藤太郎とみろくの音吉という仲の良い兄い分達の勢力を妬み、親分を殺した張本人。昔の事を想い出す藤太郎の頭に浮かぶのは親分の娘お秋だった…。