相撲の世界で、ただひたすら土俵への情熱と誠実さをもって生き抜いた名寄岩の、汗と涙の輝かしき半生記を描いた野心作。
群雄割拠する厳しい相撲の世界に入門した名寄岩は、ただひたすら土俵に情熱と誠実さをもって挑み、小結、関脇、大関と昇進した。しかし最近では妻、初枝の病気や経済的貧困が重なって転落の一歩を続け、極度に負け越してしまった。土俵に上がる名寄岩に浴びせられたファンの声は、激励の歓声に混じって罵声が聞こえるほどだった。一方、名寄岩の自宅では、結核で長い間床についている初枝や一人息子の竜夫らが心配そうにラジオに耳を傾けていた。今日もまた、名寄岩は負けてしまったが、家路を急ぐ彼は敗北を引きずることなく、恩師にもらったカステラを早く初枝と竜夫に食べさせてあげたい、その一心だった。辛くても苦しくても相撲は彼にとって生命であり、生活の糧を得る唯一の場所だった。しかし、自身の身体は病魔にむしばまれているのだった。