愛の苦悩と格闘が、霧の波止場に展開するダイナミックなスリル巨篇。
深い海霧に包まれた或る日、港につながる製鉄所の構内を突っ走る一台の熔鉄列車があった。運転士の万造は、娘ふさ子の許嫁である助手の信介が留守の夜、岸壁で争っている二人の男が、拳銃を撃ちあって倒れるのを見てしまう。静まり返った岸壁には、千円札がギッシリつまったボストンバックが残されていた。夢中でバックを抱え、家に帰った万造だったが、思いがけなく懐に飛び込んだ不浄の大金に思い悩み、飲めない酒を無理にあおる日々を送るのだった。ある日、信介は構内で、この事件の主犯である笠井に襲われる。「金を何処に隠しやがった!」という言葉が脳裏に焼きついてはなれない信介は、あの事件以来、人が変わってしまった万造を疑うようになる。万造から真相を聞いた信介は「俺が見つけたようにしてお金は届ける」と言い、岸壁にお金を持ってくるよう約束させる。その話を草叢で盗み聞きしていた笠井は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべるのだった…。