天下を騒がし、法を愚弄し、無益の殺生をする左膳の狂態に南町奉行大岡越前守の面持は暗かった。やがて急遽出府を命ぜられた岩城主水正は、江戸城中表書院で対峙した老中に詰め寄られ、左膳とは何の関係もないと、七万五千石所領の安堵と引き換えに家来を売ってしまった。忠義者ぶって踊らされた左膳も、今では越前守に、坤龍を求める主水正に追われる身となった。源十郎にしても乾坤二刀合わせて二千両という賞金に左膳と栄三郎を追っていた。法華寺の位牌堂に身を潜めている左膳の心中は苦しかった。乾雲と共に血を求めて狂った左膳は、生きていながら地獄に落ちたのだ。左膳は数十と並んだ真新しい位牌を前に、額に汗を滲ませて一心に御題目を唱えた。傍には無我夢中で太鼓を叩くお藤が、そして固く封印した坤龍があった…。