妖刀乾雲・坤竜の二刀を狙う隻眼隻腕の怪剣士丹下左膳、小野塚鉄斎を斬り乾雲を奪い、さらに坤竜を求めて起こす一大乱戦。
刀剣蒐集の妄執に憑かれた東北岩城藩七万五千石の城主、岩城主水正から神変夢想流指南小野塚鉄斎の持っている古今の名刀、乾雲・坤龍の二刀を手に入れよとの主命を奉じた隻眼隻手の藩士左膳之助は丹下左膳と変名、浪人姿に身をやつして江戸に向った。小野塚道場の後継者——乾坤二刀と共に鉄斎の娘弥生の花婿を決める晴れの試合場に乗り込んだ左膳は、期待に反して師範代の諏訪栄三郎を破った高弟の森鉄馬と鉄斎を倒して乾雲の一刀は奪ったが、坤龍は弥生に持ち去られてしまった。乾坤相離れると互いに呼び合うという聞き伝え通りにか、遊び人達が集まるグレ旗本鈴川源十郎の邸の一室でっ左膳が抜き放つ乾雲には、不気味な妖気が漂っているようにさえ見えた。鉄斎の通夜の席上、栄三郎は兄藤次郎から不甲斐なさをなじられたものの、彼に頼る門弟達や、彼にお艶という恋人がいると知りながらも坤龍を預けるいじらしい弥生に“必ず取り戻す”と固く約束した。