戦死したはずの夫が帰還。だが妻は夫の甥と新しい生活を始めていた…。戦争という大波に飲み込まれ人生を狂わされた男女の悲劇を、新藤兼人&乙羽信子の名コンビで描く。
米軍の反攻がついに沖縄を脅かし、言い知れぬ不安に慄いていた頃。夫婦睦まじく共稼ぎで理髪店を営む喜一と左喜枝のもとに、従弟の珠太郎が弟子入りしてきた。左喜枝は親切に珠太郎を指導したが、この平和な理髪店にも厳しい戦局の波が押し寄せてきた。喜一に召集令が来たのだ。喜一は珠太郎と左喜枝に後事を託して出征していった。主人なき後の心許なさを感じながら後に残された二人は暮らした。物資が不足するようになり、珠太郎は「おばさんに腹一杯ご飯を食べさせたいんだ」と左喜枝が止めるのも聞かずに買い出しに出かけた。それを見送る左喜枝は、ふと珠太郎と目が合う度にまごつくのだった。やがて戦局はますます不利になり、珠太郎も出征することになった。「皆、死なないで帰ってきて…」左喜枝は珠太郎の枕元で涙ぐんだ。珠太郎を乗せた汽車を見送った帰り道、左喜枝を待っていたのは夫・喜一戦死の内報だった。8月15日、戦争は終わった。清水の実家に帰っていた左喜枝は廃墟の東京に戻り、ある日復員姿の珠太郎と再会する。二人は傍目かまわず抱きついてむしゃぶり泣いた。二人は新出発の希望に燃えて別々に町の理髪店に勤めた。公休日をやりくりして石神井公園の安旅館で抱き合った。そして3年の歳月が流れた。二人はバラックの理髪店を建てて働いていた。そこへ突如、喜一が帰ってきた…。