因襲と封建の世界に生れた一少年が、自らの足で歩み始める成長の姿を通して、現代社会に投ずる愛と涙の物語
これは関西地方の、山々に囲まれた一寒村の物語である。この村にはまだ根強い石合戦の因習が遺っていた。村の中央を流れる猪名川を挟んで、多田院西多田の両部落の子供達は、水泳場を奪い合うのである。その度に石合戦がおきた。上神竹丸は、多田神社の神職、満臣の一人息子である。素直だが、性格の弱い竹丸は石合戦になると、いつも多田院部落の餓鬼大将の菊沢重太郎から石運びの役をやらせられる。それでも竹丸は喜んでいた。どんなことをしても遊んでもらえるのが嬉しいのである。だが、水泳といい、石投げといい、母の鴻子にはみな内緒のことであった。竹丸の母は病床にあった。躾のことになると厳しい母であったが、竹丸は母が好きだった。母をいつもあほ呼ばわりする父は好きになれないのである。