鹿児島、広島、神戸、大阪、京都、北陸、青森、函館と日本縦断ロケを敢行して贈る、現代日本の厳しい現実を子供の眼を通して描く異色大作
ここは日本の最南端—桜島が見える鹿児島県谷山町である。今日も悪童たちの囃し歌が聞こえてくる。ーへちまに、ひょうたん首くくり、ぶらりぶらり下がった、ぶらり首くくり―。勝は歯を食いしばった。というのは、父・山崎剛陸軍少将が、部下の罪と上官の命を含めて南方の一孤島で絞首台の露と消えた事に、幼い勝は父への尊敬を持っていたにもかかわらず、時代の英雄は今となっては、へちま呼ばわりとなってしまったからである。悪童たちだけでなく、大人の中にも、この幼い不幸な兄妹をむしばむものがあった。勝は妹の清子と病身の母親と、古本屋を営む伯父勇作の家に侘しく間借りしていたが、幼い兄妹を残して母親は淋しい生涯を閉じた。賛美歌とともに野辺の送りをしている時、兄妹の祖父、山崎信助が訪ねて来たが、くやみに来たというより山崎剛の家族のために残された年十万円の恩給が目当てであった。その結果、勝だけ恩給と共に心ない大人によって、鹿児島市の信助の家に引き取られていった…。