ある夜、秋月建設の社員日高雄吉は、社長の令嬢秋月京子のお供で銀座に行った帰り、夜霧に霞む鈴懸の並木道にそっと身を隠すように佇んでいる一人の若い女から悲しい身の上話を聞き、力強く励ましながら再会を約して別れた。その女は木谷美奈子と云い、両親がいないために叔父の家に厄介になっていたが、毎晩のように小山という五十がらみの強欲そうな男の妾になれと叔父に強いられるあまり、逃げ出して来たのだった。雄吉に励まされ一度は帰宅した美奈子も叔父夫婦のあまりの執拗さに再び逃げ出して街角に佇みながら、もしや雄吉に逢えたらと期待していたが、ただいたずらに夜が更けてゆくばかりであった。翌日の午後、浅間高原のとある小さな駅に、物憂げに立つ美奈子の姿が見られた。彼女は軽井沢の小瀬温泉に学校時代の級友を訪ねたのだが、何処かへ引っ越していなかった。すっかり途方にくれていた時、ちょうど通りかかった朴訥な青年、牧童の槇山三平に助けられ、三平の父母の暖かい好意にも迎えられて、美奈子は牧場の仕事を手伝いながらしばらく三平の家に身を置くこととなった。