現代に生きる若い男女が、それぞれのエゴイズムから自分の穴の中に閉じこもりながら、人間の醜い闘争を繰り返してゆく人生の縮図を描いた、巨匠・内田吐夢が15年ぶりに古巣日活でメガフォンを取る文芸大作。
研究室でノートの整理をしながら、愛してもいない看護婦の身体を抱いている...伊原章之介は、そのような男だ。志賀伸子は、伊原と娘の多実子の結婚を望んでいるようだ。主人を失った志賀家は、40代の未亡人・伸子、義理の娘・多実子、その兄の順二郎の三人暮らし。外見は裕福そうだが、遺産生活の内実はさほど楽ではない。順二郎は長い病床生活を送り、現在は株の売買に唯一の生甲斐を見出している。しかし彼の胸中には、彼を捨て去った妻の面影が常にこびりついている。多実子が義理の母のすすめる伊原との結婚話を嫌悪するのは、母と伊原との間に忌まわしい想像を抱いているからだ。その想像はあながち間違いとも言えず、井原は多実子に愛の言葉を投げる一方で、伸子にも求愛していた。かつて志賀家の玄関番をしながら学生生活を送っていた小松鉄太郎は、多実子を愛しながら、彼女の結婚話を当然のことのように眺めている。ある日、小松は会社に辞表を提出し、関西方面へ旅に出た。志賀家の最後の財産である京都の地所を処分するため、多実子は京都へ行くことになった。見送りのために井原を呼び出した多実子は、彼の手を握りしめて離さない。二人は箱根で宿をともにした。多実子の留守中、順二郎は伊原を自宅に呼び、妹との結婚話をすすめてみた。だが伊原は、彼女の相手は小松がふさわしいと答える。「年上の女性が好きになってきたんだ」という伊原を順二郎は皮肉な微笑でみつめた。伊原は、送って出た伸子を後から抱きしめ首筋に接吻した。伸子は表情を変えなかったが心は安定を失っていた…。