こころ
こころ

明治の文豪・夏目漱石の畢生の名作「こころ」に市川崑が真っ向から挑む大野心作。

日置にとって野淵先生は最も尊敬する先生であったが、同時に何かしら不可解な心情の持主でもあった。先生とは、ある夏海水浴に出かけた時に出会ったが、日置はその一瞬で先生に強くひきつけられた。これが縁で日置は東京へ帰ってからも繁々と先生の自宅へ勉強に通った。先生には美しい奥さんがおり、子供はなく二人だけの静かな家庭だった。先生と奥さんの仲は決して悪いのではないが、かといって幸福とも思えなかった。日置は先生夫婦の生活へ入りこんでいくにつれ、先生の孤独な境涯に同情をよせる一方で、何故この夫婦は暗い空気に覆われているのか、また先生が奥さんを憐れんでばかりいて愛しきれないことに不審を抱くようになった。そうした懐疑は、やがて先生の徹底した人間嫌い思想の根本をつきとめようとさえ感ずるようになった。翌年、大学を卒業した日置は先生に就職口を依頼して、重病の父の看病に田舎に帰った。その間、明治天皇が崩御し、明治の精神の終焉を淋しく悟った先生は、自分の歩いて来た今日までの荊の道を細々と書きつらね、日置に送った。重病の父の床で手にしたその手紙には「この手紙の着く頃には、自分はこの世にはいないでしょう」と書いてあった。

日本
製作:日活 配給:日活
1955
1955/8/31
モノクロ/122分/スタンダード・サイズ/13巻/3333m
日活
【千葉県】南房総市(白浜海岸)