江戸八百八町に住む娘という娘は、夕暮は勿論のこと、日中といえども外へ出るのを憚った。それというのも、最近、頻々と横行する髷斬りの犯人が捕まらないからである。今日も今日とて御用聞きの勘助が子分の五郎八を連れて浅草寺の境内を見廻りしていると突然、女の悲鳴が聞こえて来た。声の主は評判の孝行娘お光で、髷を斬られて泣き伏していた。勘助は早速見えがくれに犯人の後をつけたが、犯人らしい深編笠の浪人と若侍は、後をつけられているとも知らず、女奇術師ジャガタラお蝶一座の木戸からすうっと中に消えた。勘助は素知らぬ振りをして楽屋を訪ね、お蝶に面会を申し込んだが、今、舞台では水芸の真っ最中、その裏を覗くと、先ほどつけて来た浪人が汗をかきながら、水芸のタネの細工を一生懸命やっている。勘助はハッと思ったが、犯人と断定するだけの決め手はなかった。