ここは甲州一の大親分黒駒の勝蔵の賭場。ぶらりと舞い込んできた柳の弥之助という風来坊。この男当りに当ってさしもの賭場も胴割れという始末。ところがイカサマ賽と見破られ簀巻にされようとした所へ、隅で黙って見ていた一人の旅鴉が口を挟んだ。「イカサマを見破れず、若造を簀巻にするんじゃ黒駒一家の名に傷が付く。それより俺がこの男に代って一本勝負をやろう。負けたら俺が簀巻になるか、勝ったらこの男の勝った分はそっくり貰いたい」という。この人を喰った申し出を、何を思ったか勝蔵、ニッコリ笑って引き受けたが、この旅鴉もついていて一本勝負に綺麗に勝って、弥之助に金をかつがせて出て行く。黒駒一家は周章狼狽、あまりの鮮やかさに茫然自失の壷振りが「ヤッ、こいつもイカサマだ」と叫んだ頃は、二人の馬は早くも信濃路を素っ飛んでいた。苦み走った男っぷりの佐久の佐太郎、男前から腕っぷし、イカサマ賽の小手先まで弥之助より数枚上手だが、女にかけてはからっきし駄目で、長い渡世にも女に心を許したことがない。一方、弥之助は足を洗って故郷へ帰る途中だが、まことに女癖は悪い。こんな二人が黒駒の賭場が縁で二人旅となった。