下り列車の伊豆号が伊東駅にすべり込むと大勢の乗客は熱川行き東海バスに我先にと乗り込んだ。その中に一人ボストンひとつの軽装の青年、東京の平井道路開発株式会社の青年技師及川雅彦である。井東ー熱川間の山をぶち抜いてトンネルを掘り新道路を敷設するという開発計画のため、当地に派遣されたのであった。熱川行きのバスに揺られて見慣れぬ窓外の景色に見とれながらも、ふと目が合った隣席の女、土地の芸者ででもあろうか、これはまた田舎の温泉芸者にしてはもったいない位のなかなかの美人である。バスを降りて、なお何気なく気になる雅彦の肩をポンと叩いたのは出迎えの梶原技師、到着早々の雅彦に事細かに現場の状況を説明するのであった。翌日より開発工事は着々と進められたが、ダイナマイトの爆破作業中に危険区域内で中学生が一人怪我をするという事故が起こった。雅彦は少年を救い出し病院に運んだが、急報に駆けつけた少年の姉が偶然にも先日バスの中で隣り合わせた土地の芸者・君千代であったとは…。