雲と波、そして各国の怪電波の乱れ飛ぶ太平洋の真っ只中を、空には一機の旅客機が、海には一隻の貨物船が共に日本を目指して航行していた。懐かしの故国日本へ奇しくも同時に帰国の途を急ぐのは…機上の人はアメリカ帰りの、有名な反原子論物理学者の長曽我部久太郎博士。一方、船上の人は、これぞ我が脱線居士長曽我部永二先生、即ち久太郎博士の実弟だが、凡そ久太郎とは月とすっぽんの違いで、持って生まれた狡猾を資本に、浮世の荒浪も何処吹く風とペテンに帆を張る老獪漢。だが今や南洋密入国のペテンもばれて、恋人の女酋長に名残りを告げ、悲しくも日本に貨物船で送還される身であてみれば、その寂しさは言うに言われぬものがあった。先生の前途は果たして如何なるや…。