田中絹代監督が晩秋の古都を背景に、美しく、微妙な女性の愛情の世界を描く文芸大作。芸術祭参加作品。
浅井家は父である浅井茂吉、長女の千鶴、次女の綾子、そして三女の節子の四人で暮らしている。茂吉の妻は既に他界しており、長女・千鶴の夫も三年前に死別し実家に戻ってきた経緯があるが、それでも家族四人、戦時中に東京を離れて住み着いた奈良の地で和やかな毎日を送っていた。家の近くの寺に下宿している失職中の安井は千鶴の亡き夫の弟であり、彼とも交流があったが、ある日東京から安井の親友である雨宮らが遊びに来て、浅井家の生活はずいぶん賑やかなものになる。そんな楽しく穏やかな日々を過ごすうち、三女・節子は雨宮が次女の綾子に気があるのではないかと思うようになる。綾子の方も雨宮に好意を持っていると知った節子は一策を練ることにする。互いの名を語ってそれぞれ待ち合わせに誘い、二人の想いを恋に発展させようというものだ。節子は十五夜の月明りの下で二人が愛を囁きあうロマンチックな妄想を膨らませるが…。