東京の真ん中、銀座にある鶴亀興行株式会社の社長・鶴田亀造と秘書の桑原昭太郎は、プロレス興行の打ち合わせのため渡米したが、その帰途の飛行機の中で、鶴田社長は前方の座席にいた洋装の色っぽい、フランス帰りのデザイナーで洋装学院院長の春雨いと子が気になって仕方がなかった。というのも、夫人のはと子に内緒で、かねてからご贔屓にしてる神楽坂の売れっ子芸妓・神楽坂小はんに瓜二つだったからである。秘書である昭太郎は、やきもち焼きのはと子夫人から、渡米中の社長の浮気を監視するべく拝命していたのであるが、そんなことには頓着なく、帰りの飛行機は恋人であるスチュワーデスの小山あき子が乗っているのを選び、そっと彼女にウィンクして喜んでいるという訳でなかなかに抜け目がない。鶴田は自身の帰朝歓迎会で、はと子が昭太郎と踊りに席を立ったのを見て、一目散に神楽坂の料亭“花むら”へ駆けつけた。芸妓連中を集めてプロレス拳をやってはいたものの、目当ての小はんがなかなか現われず、やっと現われたと思ったのも束の間、彼女から「好い人ができた」と言われてすっかりしょげ切ってしまった。