黒い潮
くろいうしお
世相の濁流に抗して愛情の真実と正義を求める人間の美しさ、限りない悩みを描く。文壇の寵児・井上靖の原作を、『蟹工船』の山村聰が監督・主演する異色作。
戦後社会の不安は相次ぐ大事件-帝銀事件、平事件、国鉄整理-に絡む組合の不穏な動きなどて頂点に達していた。毎朝新聞社の宿直室で寝ていた社会部記者・速水卓夫は、警視庁詰めの記者・筧から行方不明の秋山国鉄総裁が轢死体で発見されたとの急報を受けた。複雑な政治的問題を孕む社会情勢から事件の真相は容易に判断出来ず、捜査当局の発表も状況報告という慎重ぶりだった。この事件を担当する速水は観測や憶測を避け、正確な記事を客観的にという信念のもと、自・他殺の何れとも推定せず、見透しさえもしない記事を書いたが、他社の新聞は他殺説を大きく主張した。速水のかたくなな態度に山名部長は当惑しつつも、彼を力強く激励した。速水の脳裏には、十六年前の出来事が去来していた。結婚三年目の当時、妻が流行歌手の男と心中した。この時の新聞記事は無責任な興味本位な内容で、真実とは全くかけ離れたものだった。人間の死に対し世間の眼は余りにも冷酷で、それ以来彼は世間の眼を烈しく怒り、憎むようになった。真実とは関係のない、そして真実を押し流し押し包もうとする世間の眼を、彼は再び十六年前と同じ心で憎もうとするのだった…。
日本 製作:日活
日活
1954
1954/8/31
モノクロ/113分/スタンダード・サイズ/11巻/3098m
日活
【東京都】千代田区(毎日新聞東京本社、桜田門電停付近)/渋谷区/足立区(五反野・下山事件現場)/三鷹市(三鷹駅構内)