拾った貞操
ひろったていそう
「純情一座」に次いで渡辺邦男が監督するトーキーで「男のまごころ」と同じく江川宇礼雄とのコンビ。新星・石井美笑子が薄幸の女を演じる
あらすじ 海岸通りの夕まぐれ、何処かで汽笛がボーンと淋しく鳴る。埠頭のクレーンの機関夫・文太郎はうら若い女が所在なさそうに小石を拾っては海へ投げているのを見て声をかけた。女は時子と云った。憧れの都、東京を目指してはるばる故郷を出た身が、今は場末のカフェーで日毎の糧を得なければならぬ境遇。それがたまたまその店の上客である相川という男の世話を受けろと女将に強いられて、喧嘩の果てに店を飛び出したのだ。行くところがなければ俺の下宿へ来てもいいという文太郎の優しさに泣けて、その夜、時子は世話になった。一夜は明けた。その日、文太郎はクレーンから落ちて大けがをした。時子は文太郎の看護をしなければならなかった。幸いに一命はとりとめ傷が回復するにつれ、文太郎の下宿は何時しか二人の愛の巣に変わろうとしていた。時子は可愛らしい赤ん坊を産んだ。しかし、その反面病床にある文太郎を養うため、心ならずも再びカフェー勤めをしなければならなかった。時子の身には魔の手が早くも忍び寄っていた。それから間もなく、文太郎は一夜をまんじりともせずに明かしたことがあった。時子が前夜から戻らないのだ。朝になって時子はようやく帰ってきたが、それは魂の抜けたような取り乱した姿の彼女だった。文太郎は寂しさに独り悄然として下宿を出た。あてもなく黙々と歩きまわった末、ふと佇んだのはかつて時子と初めて会った海沿いの道だった。朝の香に送られて彼に囁くのは、そのかみの懐かしい思い出である。―やっぱり帰らなければならない。思い直して下宿に帰った時には、時子の姿は最早そこには見当たらなかった。が、その時ふと彼の目に映ったものがあった。赤ん坊の可愛らしい毛糸の靴下が、金包の傍にちんまりと並べられていた。女衒相川の魔手にかかって遠く北国に売られてゆく女の群。汽車はその群の中に時子を乗せて北へ北へと驀進して行く。果たして文太郎と時子は再び巡り合えるのだろうか…。
日本 製作/多摩川撮影所
日活
1936
1936/4/1
モノクロ/スタンダード・サイズ/7巻/1728m/62分
<ご注意>
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日活