スタッフコラム「フォーカス」へ、ようこそ!当コラムでは、日活作品や当社が関連する事業などに従業員目線で"焦点(フォーカス)を当て" 様々な切り口でその魅力をお伝えします。vol.2は、引退から半世紀を超え、今なお私たちを魅了し続ける"芦川いづみさん"にフォーカス。どうぞ、お楽しみください。
"芦川いづみ"。このお名前を目にして、皆さんはどのようなイメージをいだかれるでしょうか?
吉永小百合さんも憧れた、日活黄金期のスター。
藤竜也さんとご結婚されると同時に引退、30代前半で家庭に入られた伝説の人。
「日活の原節子」「和製オードリー・ヘップバーン」などとも言われます。
多くの主演映画があり、裕次郎映画のヒロインであり、川島雄三や中平康ほか多くの監督に好まれ、同僚俳優やスタッフに誰よりも愛された方です。
清楚可憐、心の中にしっとりとした温かみを灯してくれるような魅力は、"儚げな麗しさ"と表現したくなるもので、それは、堂々たる印象や、強さとは無縁の個性です。
まぎれもない銀幕の大スターでありながらも、前面に押し出さない、控えめな個性。そのせいで、でしょうか、イメージが描きにくい女優である、という印象ももたれているようです。
しかしこのような個性は今の時代にこそ求められているものである、と、私たちは考えます。当社ではDVDを限定的にしかリリース出来ていませんでしたが、芦川さん作品を多くの方々に観ていただけるようにしたい、という思いは、常にありました。
その第一弾として、川島雄三監督から芦川いづみさんを再発見する試みを始めました。昔の女優さんを回顧するのではなく、今、素敵な人にドキドキする方々に向けて。
川島雄三監督生誕100周年と芦川いづみデビュー65周年
『幕末太陽傳』『洲崎パラダイス 赤信号』など数々の名作を生みだした日本を代表する映画監督のひとりである川島監督が生誕100周年を迎える2018年、当社は、故郷・青森県むつ市の「川島雄三を偲ぶ会」との連携により<川島雄三監督生誕100周年プロジェクト>を立ち上げ、様々な展開を進めることになりました。
日活に川島監督が遺した作品は全9作品いずれも名作ですが、映画史上の傑作であるこれらの作品以上に、川島監督が日活に遺した最大の財産は、なんといっても"芦川いづみ"という映画女優です。
芦川いづみさんは、名匠・川島雄三監督に見いだされ、1953年に映画デビューしました(松竹映画『東京マダムと大阪夫人』)。つまり、2018年は芦川さんのデビュー65周年にあたる年でもあったのです。
なお、後に芦川さんにうかがったところ、SKD(松竹歌劇団)在籍中に川島監督に呼ばれて、なんだかわからないままに「脚本を読んでごらん」と言われ、わざと間違えて読んだあげく「読めません」とおっしゃったのだとか。劇団のお友達と離れるのがいやだったそうです。
川島監督のことを知る方々は、弟子である今村昌平監督をはじめ、殆ど亡くなられています。そこで、映画女優としてデビューする前から川島監督を知る芦川さんに監督の思い出と、ご自身のお話をうかがい、おふたりの記念を同時にお祝いしたい......、そんな思いから「川島雄三生誕100周年」と「芦川いづみデビュー65周年」を同時進行することとしました。
しかし芦川さんは1968年に引退されて50年、藤竜也さんの奥様として家庭に入られています。本来ならばお声掛けすべきではないと迷いながらも、川島監督と芦川さんの記念のお祝いをしたい、ファンの皆様にお声を届けたいとの思いから、ご協力をお願いし、ご快諾をいただき、面談が実現しました。
お会いした芦川さんは映画の中の可憐な様子そのままに、少し首をかしげるようにして微笑み、ファンの皆様が今でも芦川さんの作品を観てくださっていることへの感謝の気持ちを口にされました。
そしてあの耳心地良い声で、"川島先生"のこと、日活の仲間のこと、撮影所での日々を、まるで昨日のことのように語られるのです。お話を聴きながら、このお言葉をファンの皆様になんとかして届けたい!という思いはより一層強くなり、いくつかのお願いの中でまずいただいたのが、川島監督へのお言葉でした。
芦川さんの「川島雄三監督生誕100周年と『幕末太陽傳』について」メッセージは、【2018.10.29のNEWS】でご覧になれます。
「芦川いづみ デビュー65周年記念祭」本格始動!
2019年3月、芦川さん出演作『幕末太陽傳』『風船』を含む川島監督作品6作品をリリースしたのを皮切りに、いよいよ4月・5月は「芦川いづみ デビュー65周年記念」と銘打ったDVDシリーズのリリースです。
この「芦川いづみ デビュー65周年記念」DVDシリーズは、ファンの皆様のご要望に少しでも応えたい、そして一緒にお祝いしたいという気持ちを込め、リリース作品をリクエスト募集。大変多くのご要望をいただいた中から、芦川さんとも相談しつつ10作品を選定しました。
リクエスト募集を受けて、芦川さんからいただいたファンの皆様へのメッセージは、【2019.1.18のNEWS】、DVDリリースを記念して吉永小百合さんから届いたお祝いのコメントは【2018.12.21のNEWS】でご覧になれます。
当時を知らない世代にも"女優・芦川いづみ"を知ってもらいたい
「芦川いづみ デビュー65周年記念祭」を始めるにあたって、夢想していたことがありました。
可憐さ、親しみやすさ、あたたかさ、そして引退して50年の過去のスター、だけではなく、今この時を生きているようなリアル感、当時の芦川さんや映画を知らない人でもときめくようなイメージで、65周年の幕開けをしたい。
簡単なことではありませんが、そんなイメージを作り、若い世代や新しいファンの方にも芦川さんへの間口を広げたい、そんな夢想の先に、江口寿史さん(漫画家・イラストレーター)がいらっしゃいました。
2017/11/19に放送されたラジオ「爆笑問題の日曜サンデー」にゲストとして招かれていた江口さんは、美少女イラストのお話の中で、「今だったら誰を描いてみたいか」という問いに「吉岡里帆と芦川いづみ」と回答され、そして前後して「芦川いづみに恋しています」とtweetされたのでした。
キュートでクール、印象的な美少女イラストを数多く生み出していらっしゃる江口寿史さんの描く芦川いづみ...連絡先を探り、ダメ元で打診すると、すぐに快諾メールをいただきました。
江口さんは、2年ほど前に細野晴臣さんがリリースされた『洲崎パラダイス 赤信号』をモチーフにした曲を聴かれて映画を観たところ、お店の店員がやたら可愛いので一目でファンになったそうで、事務所の棚には芦川さんの出演作DVDが並んでいました。
江口さんのイラストを65周年のイメージビジュアルとすることを楽しみにあれこれ考えて、さてここから、一枚のイラストがあがるまで、そう簡単なことではありません。
納得のいく作品が出来るまで、江口さんは妥協しない。噂に聞いていたことは本当でした。一枚だから出来るだろう、ではなく一枚だからこそ、思いを込めた芦川さんだからこそ、なのかもしれません。
もしかしたら、連動上映やDVDリリースの後になってしまうのではないか...という一抹の不安と江口さんの思いが込められたイラストへの期待が交錯するなか、数ヶ月後に一枚のイラストがあがりました。
江口さんはご自身の展覧会でも芦川さんのイラストを展示してくださり、コメントを出されています。「ノスタルジーではない、まさに今、最旬の美」という江口さんならではのコメントは【コチラ】からどうぞ。
このイラストを芦川さんにお見せしたところ、一目見るなり「わあ、素敵!」と、目を輝かせ声を上げて喜ばれ、イラストを胸に抱きしめて「私、死んじゃったらお墓に入れてもらいたい」とおっしゃいました。その可愛らしいことと言ったら!
この様子を江口さんに報告したところ江口さんも喜んでくださり、【江口さん喜びのtweet】はあっという間に拡散されました。
"芦川いづみファンの聖地"で65周年記念特集を
神保町シアターさんでは「恋する女優」シリーズで、数年前から芦川いづみ特集を組んでいただいていました。
全国遠いところから通われているファンの方もいらっしゃる"芦川ファンの聖地"とも言えるこの劇場で、ぜひ65周年記念の特集上映ができたら...と支配人にお声掛けし、快諾いただきました。
引退された芦川さんがゲストとして来場することは叶いませんが、芦川さんのお声をファンの皆様にお届けすることは出来ないかと考えました。
先ほども触れましたが、DVDリリース作品はファンの皆様からリクエストを募り、そのリクエストを元に芦川さんにもご意見をうかがい、作品を決めました。
どれも芦川さんの歴史の中で重要な作品です。その作品たちを辿りながら芦川さんにお話をうかがい、DVD10作品すべてにコメント音声を収録するという、これだけでも大変なお願いをお引き受けいただきました。
「私がいただく、最後のお仕事ですね」と微笑む芦川さんは、よどみなくまるで昨日のことのように、表情豊かに、語尾が少し上がる特有の可愛らしい声で、川島監督や石原裕次郎さん、吉永小百合さんや作品のことを、生き生きとお話しされます。
日活時代のことが、芦川さんの中では今日この時もそのまま生きていることに、心うたれる思いがありました。各DVDに芦川さんのお話を収録していますので、是非お聴きください。
もうこれだけで十分だと思いながらも、大先輩に甘えるような気持ちで、劇場のファンの皆様へのお言葉をお願いすると、流石にこれはしばらく逡巡された後、どうしても出来ないことを丁寧に説明されて「ごめんなさいね」とおっしゃいました。
ところが、しばらくして芦川さんから、わざわざ連絡をいただきました。
「お話しした時は、準備が出来ていなかったからどうしても無理でしたけれど、お家に帰って、心の準備と声の準備をしてコメントを取ってみました」とのことで、なんと宅録でメッセージをいただいたのです。それが劇場でかけていただいた音声メッセージです。
芦川いづみは、引退して50年たっても尚、映画俳優でした。
芦川さんはご自分のことを「不器用なんです」とひかえめにおっしゃいます。でも、少しだけ胸をはって「でもね、努力でなんとかするの。子どもの時から父に言われて育ったの、芦川家はみんな努力家なのよ」と、可愛らしく胸を張るのです。
現場に入る直前まで、とことん役作りを積み重ねる。それが、芦川いづみです。
ファンの皆さんへのコメント収録は、"芦川いづみの言葉"である以上、簡単に私人として話すことは出来ないのです。
簡単にお願いした無神経さを怒ることも諭すこともなく、優しい気持ちとファンへの感謝を胸に、お家でしっかりと「役作り」をされたのです。
そのお言葉の心のこもった響き、それはまさしく「芦川いづみ」の言葉でした。
引退されてからきっと初めての、そして一度きりのコメントは、芦川いづみが今でも映画俳優であることの証しでした。
神保町シアターさんでは、このメッセージがかかるたびに、そのお声に涙する方がいらっしゃいました。
神保町シアターさんでの特集上映は大盛況で幕を閉じ、続くGWには舞台を大阪へ移し、東京と若干プログラムを変更して行われたシネ・ヌーヴォさんでの65周年記念祭にも連日多くのファンの方に足を運んでいただき、スクリーンの中の芦川さん、そして温かなお人柄を感じられる心のこもった音声メッセージを楽しまれました。
また、両劇場に期間中置いていただいた江口寿史さんが手がけられたイメージイラストチラシも、あっという間にファンの皆様の手にわたり、あいにく入手できなかった方も出てしまうという心苦しくも、大変うれしい反響をいただきました。
"芦川いづみ"熱は映画界のみならず出版界へ
「65周年記念祭」では、芦川さんの写真集製作にもトライしました。
版権条件の調整をした上で、同僚の力も借りながらいくつかの出版社に打診し、文藝春秋さんとのコラボレーションにより、記念書籍「芦川いづみ 愁いを含んで、ほのかに甘く」が出来あがりました。
芦川さんの全出演作品の写真を掲載することを前提に、オフショットを含めた日活が所有するすべての芦川さんの素材をリストアップし、目を通して選別し、書籍化するというハードで嬉しい作業は、労を惜しまないスタッフの力で実を結びました。
そして、改めて芦川さんに独占長時間インタビューをお願いしました。
いったい、いくつお願いを聞いていただいたことでしょう。
今度のインタビューでは、生まれから引退まで、そして作品以外のことや今の生活に至るまでを、お話いただきました。
また、書籍の刊行を記念して実現した新文芸坐(東京・池袋)さんでの【芦川いづみ映画祭】には、春に開催した東京・大阪と同様に多くの方が足を運ばれ、映画を楽しまれたのはもちろん、先行販売した書籍も好評で、衰えることのない芦川さん人気を証明する形となりました。
芦川さんが日活に来なかったら、松竹では小津安二郎作品や寅さんのマドンナ、TVでは久世輝彦作品や山田太一作品、今年は「やすらぎの刻」で藤竜也さんと共演していたかもしれません。でも、芦川さんは日活で女優人生を送られたことを、「誰よりも幸せだった」と現役のころのままで語られます。
65周年をきっかけに、"芦川いづみ"という素晴らしい女優の作品を、改めてご覧いただければ幸いです。
最後に、川島雄三監督と芦川いづみさんの記念進行では、たくさんの方々にご協力いただき、ご支援いただきました。今でもファンの方々に感謝されている芦川さんの温かい思いに導かれるように、集まっていただいた皆様のお力で進行することが出来ました。改めてお礼申し上げます。
(vol.2 文:金山功一郎)
沢山の方にご支持いただき<65周年記念DVD第2弾>4/2(木)再発含め6作品リリースです!
◎初HD化/初DVD化 ¥3,200+税
<特典>芦川いづみ 特製スチールプロマイド
・硝子のジョニー 野獣のように見えて
・誘惑
・しあわせはどこに
・しろばんば
・四つの恋の物語
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発売元:日活 販売元:ハピネット
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