スタッフコラム「フォーカス」へ、ようこそ!当コラムでは、日活作品や当社が関連する事業などに従業員目線で"焦点(フォーカス)を当て" 様々な切り口でその魅力をお伝えします。vol.18はラピュタ阿佐ヶ谷で上映される「添えもの映画百花繚乱 SPパラダイス!! 日活篇」の見どころにフォーカスします。
「SP映画」とは、1950年~60年代にメインプログラムの併映用に製作された中篇映画のこと。日本映画の黄金時代に邦画各社によって量産され、「添えもの映画」とも呼ばれました。実はこのSP映画、「添えもの」であるが故に、ヒットを義務付けられたメインプログラムでは出来ない試みや、多くの冒険に満ちているのです。
そんなSP映画の中から、日活が製作した作品群を54本という大ボリュームで上映する特集が、ラピュタ阿佐ヶ谷で8月14日(日)から10月15日(土)まで開催されます。
そこで今回の「フォーカス」では、ラピュタ阿佐ヶ谷支配人に特集の見どころについて語っていただきました。DVDや配信で観られる作品も限られており、映画館での上映機会も少ないSP映画。その知られざる魅惑の世界にご案内します。
【上映作品ラインナップ】
『おヤエ』『事件記者』『刑事物語』の名物シリーズから、アクション、歌謡、コメディ…バラエティに富む54作品を上映!
星は何でも知っている/赤いランプの終列車/事件記者/事件記者 真昼の恐怖/お笑い三人組/船方さんよ/月は地球を廻ってる/狂った脱獄/事件記者 仮面の脅迫/事件記者 姿なき狙撃者/俺は淋しいんだ/青春を吹き鳴らせ/おヤエのママさん女中/おヤエの家つき女中/事件記者 影なき男/事件記者 深夜の目撃者/可愛い花/情熱の花/おヤエの身替り女中/おヤエのあんま天国/事件記者 時限爆弾/事件記者 狙われた十代/刑事物語 東京の迷路/刑事物語 殺人者を挙げろ/特捜班5号/ガラスの中の少女/事件記者 拳銃貸します/事件記者 影なき侵入者/刑事物語 灰色の暴走/刑事物語 銃声に浮かぶ顔/おヤエの女中と幽霊/おヤエの女中の大将/らぶれたあ/君は狙われている/刑事物語 前科なき拳銃/刑事物語 小さな目撃者/おヤエのもぐり医者/おヤエの初恋先生/僕は泣いちっち/天使が俺を追い駈ける/刑事物語 知り過ぎた奴は殺す/刑事物語 犯行七分前/俺は流れ星/青い芽の素顔/破れかぶれ/いのちの朝/刑事物語 ジャズは狂っちゃいねえ/刑事物語 部長刑事を追え/俺はトップ屋だ 顔のない美女/俺はトップ屋だ 第二の顔/花と娘と白い道/ある脅迫/お父ちゃんは大学生/東京ドドンパ娘
―ラピュタ阿佐ヶ谷は日本映画の旧作を上映する名画座ですが、編成する際のこだわりは何ですか。
石井 日本映画の旧作を上映する映画館は都内にいくつかありますが、ラピュタ阿佐ヶ谷はその中では小さい劇場ですし、立地的にも都心から少し外れた場所にあります。お客様に足を運んでいただくために、ここでしか観られない、他館ではあまり上映しない作品を編成するようにしています。
―確かに個性的な特集が多いですね。
石井 マニアックになりすぎるとお客様が限定されてしまいますし、定番作品ばかりだと常連の方に満足してもらえませんので、その辺りのバランスには気を付けるようにしています。フィルム上映にもこだわっています。デジタル上映はたしかに鮮明ですが、やはりフィルムの質感が好きだし、美しいと感じます。
―お客様から上映作品のリクエストはありますか。
石井 はい。上映可能な作品はタイミングの合う時に編成するようにしています。リクエストBOXは設置していないのですが、スタッフに直接伝えてくださるお客様も多いですし、お電話やメールでもよくリクエストを頂戴します。また年に一回、七夕の時にはロビーに笹を置いて、観たい映画を短冊に書いてもらっています。
―ロビーには机や椅子が多くてカフェのようですね。常連さん同士がご結婚されたこともあるとか。
石井 そういう珍しいケースもあります(笑)。名画座に通っていると、お客様同士がいつの間にか顔見知りになることは多いと思います。映画を観た後は語りたいですから。今の映画館はロビーに椅子が少ないですよね。この劇場はシニアのお客様も多いので、座って待っていただけるように机や椅子を置くようにしています。
―これまで印象に残っているプログラムは何ですか。
石井 いろいろありますが、想い出深いのは『事件記者』シリーズですね。とにかくお客様の熱気が凄かった。日活版10作と東京映画版2作を連続上映したのですが、回を重ねるに連れてハマる人が続出していくのが傍で見ていてわかるんですよ。お客様が特集を盛り上げていったという点で、とても想い出に残っています。あまりに盛り上がるので、お客様の熱気にあてられるような形で急遽、イナちゃん役の滝田裕介さんのトークショーを企画しました。当日は交通機関がストップするほどの大雪だったのですが、お客様も大勢いらして下さいました。
―その後も特集「日活アルチザン 山崎徳次郎の仕事」で、『事件記者』を上映していますね。
石井 『事件記者』シリーズは定期的にまとめてやりたいので、この時は視点を変えて監督括りにしました。『事件記者』シリーズは今回の特集でも上映します。
―過去にも2回、SP映画特集を実施していますね。SP映画の魅力は何ですか。
石井 SP映画とは2本立て、3本立て興行をしていた時代に、メインプログラムの併映作として製作された中篇映画のことです。次々と量産されたので、作っている当時は後世に残ることなど考えていなかったと思います。ヒット曲をモチーフにした歌謡映画や、当時ブームになっていたフラフープをテーマにした映画など、何でも映画にしてしまう感覚がすごく好きです。
それに、脇役に「推し」がいる人にとってもSP映画は堪らないですね。メインプログラムではちょい役の俳優が、SP映画だと大きめの役を貰えて、出番もいつもより長いんです。私は花村典克さんという脇役の方が好きなのですが、名前を特定するまでとても時間がかかりました。出演シーンがほんの数秒だったり、役も「記者A」とか「刑事2」とか、ノンクレジットも多いものですから。でもSP映画だと名前も前の方にクレジットされるし、セリフも多いので嬉しいです。
『事件記者 真昼の恐怖』写真左から2番目が花村典克さん。※花村さんは改名歴が多く、日活作品でもさまざまな名義で出演しています(花村彰則、花村信輝、花村典昌、花村典克、三原一夫 ※改名順ではありません)。©日活
石井 主演俳優もメインプログラムとは顔ぶれが違います。SP映画で主演を務めるのはメインプログラムでは二番手、三番手の俳優さんたちです。岡田真澄さんの主演映画を数多く上映するのも、この特集ならではのことです。
―SP映画は当時、新人監督や新人俳優の腕試しの場にもなりました。今回の特集では、鈴木清順監督の初期作品『らぶれたあ』や、蔵原惟繕監督の傑作SP映画『ある脅迫』も上映されます。『ある脅迫』は西村晃さんと金子信雄さんの顔芸を観ているだけで、時間を忘れてしまう面白さがあります。
石井 鈴木清順監督も、『事件記者』の山崎徳次郎監督もデビュー作はSP映画でした。今回上映する『特捜班5号』は野村孝監督のデビュー作です。今回の特集では吉永小百合さんの初期作品『ガラスの中の少女』『花と娘と白い道』『天使が俺を追い駈ける』『青い芽の素顔』も上映します。『青い芽の素顔』はお化け煙突や蔵前の問屋街など、今では失われてしまった東京下町の原風景も見どころです。
アーカイブという視点では『お笑い三人組』も貴重です。人気テレビ番組を映画化した作品ですが、当時のテレビ番組はほとんど映像として残っていないので、当時を知る方は懐かしく思われるのではないでしょうか。
『青い芽の素顔』(1961年 監督:堀池清 出演:吉永小百合 川地民夫 松尾嘉代) ©日活
―今回の特集の中で、特に観てほしい作品は何ですか。
石井 シリーズものでは、やはり『事件記者』ですね。新聞記者が大勢出演しますが、ライバル紙の記者も含めてキャラがそれぞれ立っているので、観ているうちに贔屓の記者ができて愛着が湧いてくるんですよ。
お仕事映画として観ても面白いです。今こういうテーマで映画化すると、主人公の恋人が登場して事件に巻き込まれたりしますが、そういう余計な恋愛描写が一切無い。新聞社同士のスクープ合戦など、徹底して記者の仕事ぶりだけを描いているのは却って良いです。
―それでいて、決してシリアスではないんですよね。新米記者役の沢本忠雄さんと山田吾一さんのコンビも面白いですね。
石井 『事件記者』は連続テレビドラマの映画化なので、ドラマから続投している俳優さんが多いのですが、沢本さんの役は映画オリジナルのキャラクターです。シリーズを重ねるうちに若手記者として成長していく沢本さんと、いつまで経ってもズッコケの山田さんという対比もユーモラスですし、山田さんの上司役の高城淳一さんはいつも怒鳴っているけど、部下への愛情も感じられてジーンと胸に響きます。毎回、事件に関与する人物を日活の名脇役が演じているのも嬉しいです。
―シリーズ1作目の犯人役は宍戸錠さんと野呂圭介さんという、後の「どっきりカメラ」コンビですね(笑)。お二人とも役を楽しんで演じている様子が、画面から伝わってきます。
『事件記者』(1959年 監督:山崎徳次郎 出演:沢本忠雄 永井智雄 滝田裕介) ©日活
石井 シリーズものでは『おヤエ』全8作もお勧めです。何といっても若水ヤエ子さんの魅力に尽きます。初めて観た時は、なんちゃってズーズー弁と可愛らしい声のインパクトがすごくて(笑)。ストーリーはコメディなんですけど、人情味に溢れていてちょっとしんみりするところも良いんですよ。
『おヤエのママさん女中』(1959年 監督:春原政久 出演:若水ヤエ子 柳沢真一 森川信) ©日活
―歌謡映画のお勧め作品は何ですか。
石井 イチ押しは渡辺マリさんのヒット曲をモチーフにした『東京ドドンパ娘』です。これ、本当に好きなんですよ。ストーリーは他愛も無いんですけど、観終わって「ああ楽しかったなあ」と後味がすごく良いんです。『東京ドドンパ娘』という曲自体がアッパー系じゃないですか。クスクス笑いながら観て、幸せな気分になって家に帰ることができるんです。
―森川信さん、由利徹さん、南利明さん、杉狂児さん、逗子とんぼさんら喜劇人の掛け合いも楽しいですよね。同系統の作品では、フラフープをテーマにした『月は地球を廻ってる』も多幸感に溢れていますね。「ふーらふらふらフラフープ」と歌いながらフラフープを回す中島そのみさんがチャーミングですし、西村晃さんがフラフープをしている絵面だけで笑えます。
[写真左]『東京ドドンパ娘』(1961年 監督:井田探 出演:沢本忠雄 香月美奈子 渡辺マリ) ©日活
[写真右]『月は地球を廻ってる』(1959年 監督:春原政久 出演:岡田真澄 中村万寿子 中島そのみ) ©日活
石井 『赤いランプの終列車』は貴重な映像が満載です。春日八郎さんの歌謡生活10周年を記念して作られたので、当時の人気歌手が勢揃いしています。野球選手の金田正一さんも出演していて、登場シーンでは客席がいつもざわつくんですよ。日活スター俳優のカメオ出演も楽しいです。
―『可愛い花』『情熱の花』も、これぞ歌謡映画という豪華な内容ですよね。ザ・ピーナッツの大ヒットナンバーも満載ですし、『可愛い花』で平尾昌晃さん(本作では「平尾昌章」名義)が歌う「月の沙漠」も、うっとりするほど素晴らしいです。
石井 この作品は私も大好きなので、よく上映します。
[写真左]『赤いランプの終列車』(1958年 監督:小杉勇 出演:春日八郎 岡田真澄 白木マリ) ©日活
[写真右]『可愛い花』(1959年 監督:井田探 出演:ザ・ピーナッツ 岡田真澄 平尾昌章) ©日活
―『いのちの朝』はニュープリント上映が実現しました。
石井 芦川いづみさんはとても人気があるので、この作品を選びました。ラボのご担当者の尽力で実現しましたが、これより歳月を経るとプリントできない状態だったそうです。このタイミングで実現できて、本当に良かったです。画面の揺れや音ノイズは部分的に見受けられますが、見事に甦らせてくださったと思います。芦川いづみさんを愛でる映画として最高の作品ですので、ぜひニュープリントでご覧いただきたいです。
―ニュープリント試写を観た人が、後にロマンポルノで活躍する俳優さんが数多く出演していることに気付いたと言っていました。ニュープリントならではの発見だと思います。
『いのちの朝』(1961年 監督:阿部豊 出演:芦川いづみ 宇野重吉 清水将夫) ©日活
―今回の特集は日活のSP映画だけを54本上映します。かつてないボリュームですね。
石井 今年、日活が110周年を迎えると聞いて、この機会に改めて日活のSP映画にスポットを当ててみたいと思いました。本当はもっとたくさん上映したかったのですが、これでもかなり絞ったんです。『船方さんよ』『俺は淋しいんだ』『特捜班5号』『俺は流れ星』『いのちの朝』の5本は、ラピュタ阿佐ヶ谷で今回初めて上映する作品です。
SP映画は、石原裕次郎さんや小林旭さん等スターが出演するメインプログラムにおまけのように付いていた添えものですが、日本映画の全盛期を支えていた作品群の一つです。当たり外れはありますが、お宝を見つけていただけると思います。
(インタビュー了 vol.18 担当・山田)
ラピュタ阿佐ヶ谷「添えもの映画百花繚乱 SPパラダイス!! 日活篇」上映情報
【期間】2022/8/14(日)~10/15(土)
【上映スケジュール】
http://www.laputa-jp.com/laputa/program/sp_paradise_nikkatsu/
【料金】(2本立て)
一般 1,500円/シニア・学生 1,300円/会員 1,100円
水曜サービスデー 1,300円均一
※「添えもの映画百花繚乱 SPパラダイス!! 日活篇」のみの特別料金です。
『いのちの朝』ニュープリント記念 入場者プレゼント決定!
10/2(日)~『破れかぶれ』『いのちの朝』をご鑑賞のお客さま、先着110名さまに、『いのちの朝』映画ポスターをデザインした特性ポストカードをプレゼントいたします。
●配布期間:10/2(日)より配布、なくなり次第終了。
※お一人様につき一枚。
※非売品です。転売はご遠慮ください。