スタッフコラム「フォーカス」へ、ようこそ!当コラムでは、日活作品や当社が関連する事業などに従業員目線で "焦点(フォーカス)を当て" 様々な切り口でその魅力をお伝えします。vol.27は「日活映画ロケ地マップ」にフォーカス。「この場所で、あの時代にあの映画が撮影されていた」と知ると、その作品を身近に感じてきませんか? 今回は、「過去の資料管理」に日活で過ごしたおよそ半分の期間携わり、日活卒業を間近に控える社員(「vol.3 過去の資料を探して」担当)に、ロケ地関連にポイントを絞って語ってもらいました。どうぞ、お楽しみください。
「日活映画ロケ地マップ」はじまりのキッカケ
日活公式サイト内の「映画作品ページ」にロケ地情報を登録し、さらにロケ地情報が登録されている作品を都道府県からもたどれる「日活映画ロケ地マップ」をスタートさせたのが2014年4月。早いもので10年が経ちました。
*左)日活公式サイト 「映画作品」 ページ 右)「日活映画ロケ地マップ」 ページ
このプロジェクトは3人で立ち上げたのですが、その中のひとりが全国各地の団地や様々な建造物を見るのが好きで「ロケ地マップ」のアイデアをひらめいたことがキッカケです。
私は、高校生のときにテレビでみた『東京の暴れん坊』で小林旭さんに魅了されファンになったのを機に日活映画を観始めたのですが、何度も鑑賞するうちに「良いところだな。どこで撮影しているのだろう?」と、風景にも興味を持つようになりました。
時を経て過去の資料や素材の管理業務に携わるようになったある日、倉庫で資料を整理しているときに、過去作品にまつわる新聞記事のスクラップがみつかりました。そこには「〇〇へロケーションに行った〇〇一行が〇〇をして~」と、当時の撮影隊の様子が書かれた記事もありました。
「この記事を元にした情報をデータにして、見られるようにできたら面白いだろうな」
ロケ地情報のデータ化構想がスタートしました。
旧作のロケ地情報を探るには
スクラップは、日活が製作を再開(注:当社は戦時下統合で1942年に製作から一旦撤退)した1954年以降のもので、全ての作品が揃っているわけではありませんが、当時の宣伝部が新聞記事を切り抜いて作品ごとにまとめていたものです。
そこで、旧作のロケ地情報を探る手段のひとつとして、まずは新聞記事を利用することにしました。ところが新聞記事に書かれていることが、必ずしも正確とは限りません。複数の新聞がロケ隊について報じている場合、記事を見比べると不思議なことに新聞によって地名が微妙に違うことがあります。こうなると、記事をヒントにさらに調べたり、調べきれないこともあったり。せっかく新聞記事が残っていても、これだけでは正確な情報を得ることが難しいケースもあり、一筋縄ではいきません。
新聞記事の次は、完成台本を参考にします。が、完成台本に書かれている情報も、例えば「〇〇の見える場所」「キャンプ場」「〇〇近くの道」「海岸」「とある駅」などと漠然としていたり、事実とは異なる場合があり鵜呑みすることはできません。「実際には完成台本に書いてある場所と違う場所で撮影していた」ということがしばしばあるのが、なんとも厄介です。ロケ地情報に限らず、「黒い犬」と書いてあるのに本篇をみたら「白い犬」だったなど、完成台本と本篇の間には変更点が多いのです。
*完成台本の一例(『東京の暴れん坊』 から抜粋)
最後は、実際に本篇を観て確認します。「この場所も映っていたのか!」と新たな発見があることもありますが、昔の風景は本篇を観てもどこだかわからないケースが少なくないのが正直なところです。例えば東京駅や横浜の赤レンガ倉庫などのように何かランドマークが映っていればわかりやすいですが、そうでない風景を判別するのは、骨の折れる作業です。
そこで、実は非常にありがたいのが、旧作ファンの方々や関係各所からの情報提供です。情報提供してくださる方のなかには、実際にロケ地を訪れて検証することを趣味として楽しまれている方や、我々日活社員以上に熱心に、頻繁に情報をお寄せくださる方もいて、そういった貴重な情報提供にも助けられながら地道にデータを積み上げ、ロケ地情報を更新しています。
▼(参考)2024年11月現在 都道府県別のロケ地情報登録作品数
北海道 | 青森県 | 岩手県 | 宮城県 | 秋田県 | 山形県 | 福島県 | 茨城県 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
38 | 11 | 4 | 7 | 4 | 5 | 11 | 21 |
栃木県 | 群馬県 | 埼玉県 | 千葉県 | 東京都 | 神奈川 | 新潟県 | 富山県 |
22 | 31 | 27 | 51 | 704 | 352 | 17 | 6 |
石川県 | 福井県 | 山梨県 | 長野県 | 岐阜県 | 静岡県 | 愛知県 | 三重県 |
10 | 6 | 16 | 53 | 15 | 121 | 21 | 12 |
滋賀県 | 京都府 | 大阪府 | 兵庫県 | 奈良県 | 和歌山 | 鳥取県 | 島根県 |
15 | 35 | 54 | 63 | 9 | 3 | 2 | 3 |
岡山県 | 広島県 | 山口県 | 徳島県 | 香川県 | 愛媛県 | 高知県 | 福岡県 |
4 | 11 | 7 | 3 | 18 | 5 | 7 | 20 |
佐賀県 | 長崎県 | 熊本県 | 大分県 | 宮崎県 | 鹿児島 | 沖縄県 | 海外 |
1 | 12 | 7 | 3 | 2 | 10 | 3 | 28 |
ところで、ロケ地情報のところに、それ以外の情報も併せて記載している作品があることにお気づきでしょうか?作品によっては、新聞記事を元にロケ隊が泊まった宿の情報なども載せている場合があります。
これは地方の旅館の方から「昔ロケ隊が訪れたときに撮ったと思われる写真がウチの宿に長年飾ってあります」というご連絡を過去に何度かいただいたことがキッカケです。我々が保管していない、思いがけない写真から新たな情報がみつかるケースもありますので、「日活映画ロケ地マップ」が、写真をお持ちの宿泊施設関係者の方の目にとまり、新たな発見に繋がると嬉しいです。
ロケ地をキッカケに旧作を楽しむ
鉄道好きな方のなかにも「乗り鉄」「撮り鉄」「音鉄」など様々な種類のファンがいるように、映画の楽しみ方も様々。何十年という時を遡り、映画の中に生き生きと映し出されるロケ地の風景や建造物に着目し、作品が撮影されたあの頃に思いを馳せるのも、味わい深い映画の楽しみ方のひとつです。
私は自分の生まれ故郷でロケした作品は、つぶさにチェックしています。もし旧作を観るキッカケをお探しの方がいたら、ご自身が生まれ育った場所、いま住んでいる場所、よく通る場所など自分にとって身近な場所で「どんな日活作品のロケが行われたのだろう?」と考えてみると、気になる作品が見つかるかもしれません。
当時とは見た目が変わっていても、同じような場所に同じようなランドマークがある場合、例えば「駅」などは場所がわかりやすく変化を楽しめますし、一方で今ではもう見ることができない、その時代ならではの貴重な風景や建造物も映画の中ではたくさん見ることができます。
新宿、なかでも歌舞伎町は一般作だけでなく、ロマンポルノ作品のロケ地としてもよく使われました。当時とはすっかり様変わりした今ご覧いただくと、新鮮な景色の数々を楽しめるロケ地のひとつだと思います。
もうひとつ、多くの作品のロケ地として使われた場所に銀座がありますが、当時東京随一の繁華街であった銀座の街並みを再現した巨大オープンセット「日活銀座」が、1962年 撮影所に誕生しました。
*オープンセット「日活銀座」©日活
銀座を舞台にした作品のなかには、ワンカットごとにロケで撮影した本物の銀座とオープンセットがミックスされている作品もあります。作品をたくさん観ていると、アングルなどいくつかのポイントからロケとオープンセットの違いに気づけるようになるかもしれませんが、そうはいっても容易には見分けられないように撮影されているので、そこはやはり巧いなぁと思います。そのあたりにも着目しながら、いろいろな作品を楽しんでみてはいかがでしょう。
苦労にまさる発見の喜び
ここまでロケ地にまつわる話をしてきましたが、ロケ地情報に限らず、日活公式サイトで見ることができる映画に関する情報は、いろいろな過去の資料が元になっています。しかし、たくさんの映画が生み出された時代の資料は今のようにデータがあるわけではなく、全て「紙」です。様々な変遷のなかで消失してしまったものも数知れず。
そんな途方もない量の過去資料を整理すること、あるいは欠けている情報を探し、データ化して管理する作業には忍耐を要しますが、苦労よりも新しい情報を見つけたときの「喜び」が勝ります。
知らなかったこと、これまでわからなかったことが明らかになり、情報を更新する瞬間は気持ちが高揚します。ゴールの見えない作業の繰り返しですが、一歩一歩前進し、地道に積み重ねていく達成感が、過去資料の整備の面白さ、醍醐味ではないかと思います。
あの時代、あの景色。「昔と今」をつなぐ「日活映画ロケ地マップ」が、誰かの心に残る作品との出会いに一役買うことができるならば、過去資料の整備に長年携わってきた者として、こんなに嬉しいことはありません。
(vol.27 聞き手・文/広報担当 K.S)
日活映画ロケ地マップ
ロケ地情報が記載されている作品のすべてを配信やパッケージ商品などでご覧いただけるわけではございませんが、配信でご覧いただける作品は年々追加しています。作品ページや各動画配信サービスなどでチェックなさってみてください。
お勤めの施設、ご自宅、ご実家などに過去の資料は眠っていませんか?
撮影隊が訪れたときの写真、台本、スチール写真、ポスター、チラシ、会社関係書類などの古い資料・情報をお持ちでしたら、それは歴史を証言する貴重なものかもしれません。時代、種類を問わず、お心当たりのある方は【お問い合わせフォーム】より、ご一報いただけますと嬉しいです。ロケ地関連の情報も、こちらにお寄せください。
↓↓旧作を楽しめるチャンネルのご紹介↓↓
Amazonチャンネル 日活プラス
名作から4Kデジタル復元版シリーズ、蔵出し作品、ロマンポルノ、最新注目作まで幅広いラインナップをお楽しみいただけます。[Amazonプライム会員の方は、月額390円(税込) でご視聴可能]
YouTube 日活フィルム・アーカイブ
旧作の予告編や特報ほか、お宝映像や期間限定で映画の無料配信も行っていますので、ぜひチャンネル登録してお楽しみください。
https://www.youtube.com/@NikkatsuFilmArchive?app=desktop