vol.24 鈴木清順監督生誕100周年!「清順映画」の前に「清太郎映画」あり!!
2024.02.29(木曜日)

スタッフコラム「フォーカス」へ、ようこそ!当コラムでは、日活作品や当社が関連する事業などに従業員目線で"焦点(フォーカス)を当て" 様々な切り口でその魅力をお伝えします。

鈴木清順生誕100周年を記念してBlu-ray ボックス「セイジュンと男たち」(発売中)、「セイジュンと女たち」(3/6発売)がリリース。

「セイジュンと男たち」には記念すべき監督デビュー作『勝利をわが手に-港の乾杯-』や、第79回ヴェネツィア国際映画祭クラシック部門で最優秀復元映画賞を受賞した『殺しの烙印』[4Kデジタル復元版]等7作品、「セイジュンと女たち」には清順美学が炸裂する『肉体の門』や『関東無宿』等6作品が収録されています。

そこで今回は「フォーカス 特別篇」として、映画評論家の轟夕起夫さんにBlu-ray ボックスに収録された作品について寄稿していただきました。「鈴木清太郎」時代の初期作品と「清順」改名後の作品にみられる共通性にフォーカスしています。どうぞお楽しみください。


©日活

「清順映画」の前に「清太郎映画」あり!

文:轟夕起夫(映画評論家)

今回編まれた2セットの鈴木清順ブルーレイBOX。セレクトされた(世界中のファン垂涎の)作品群に触れてみて、改めてこう思った。

「清順映画」の前にまず、歴然と「清太郎映画」が存在している――のだと。

そもそもの出発点、「清太郎映画」のスタートはご存知の通り、本名の“鈴木清太郎”でクレジットされた、1956年発表の監督デビュー作『勝利をわが手に-港の乾杯-』である。(流しの役で劇中、数カットだけ登場する)青木光一のヒット曲「港の乾杯」「月のおけさ船」をフィーチャーした、いわゆる歌謡映画。よくあることだがその歌詞は、ストーリーにほぼ関係なく、オリジナルの筋立てが用意されている。脚本担当は中川順夫と浦山桐郎の共同。


『勝利をわが手に-港の乾杯-』(1956年 監督:鈴木清太郎 出演:三島耕 牧真介 芦田伸介 南寿美子)©日活

要約すれば、何か過去に曰くありげな元船乗りの兄(三島耕)と、競馬のジョッキーとして注目を集める弟(牧真介)が久々再会するのだけれど、二人の間には若干の確執が。弟はレースのとき、競馬場のスタンドから自分に熱視線を送る謎めいた女性(南寿美子)に惚れ、ところが彼女を情婦として扱う、横浜の一角を牛耳るボス(芦田伸介)につけ込まれて八百長を強要されることに。そんなウブな弟を、体を張って救おうとする兄……とまあ、たわいない話と言ってしまえばそれまでだが、この手のプロットを独創的なタッチで面白く魅せてくれるのがプログラムピクチャーの旗手たちであり、「清順映画」並びに、「清太郎映画」もまさにそう!

つまり、『勝利をわが手に-港の乾杯-』は(まだまだ発展途上、中途半端ではあるものの)、手練手管な演出力と、時に目を引く空間設計、アナーキーなシーン繋ぎ、使い古された話法を崩す勇気ある流儀などが、初々しく同居しているのだ。ただし、モノクロなのであの斬新な色遣いはまだない。が、しかし趣向を凝らして大きく傾(かぶ)く、はたまた、その映える美意識とともに語られてきた「清順映画」のエッセンスが早くも散見されるのである。


『勝利をわが手に-港の乾杯-』©日活

例えば、八百長に追い込まれていく弟を、人知れず兄が見守るシーン。そこで彼は車両基地のようなところに現れ、貨車の前を通り過ぎて佇む。それを追うカメラは左から右への移動撮影。おおっと思わず、『東京流れ者』(66年)の冒頭シークエンスが脳裏に浮かぶだろう(厳密には後者は、奥から主演の渡哲也が歩いてきて、カメラが左から右へと少々フォロー。貨車を挟んで敵役の郷鍈治と対峙する)。それから、ボスのアジトでリンチを受け、弟は幽閉されてしまうのだが、手下がドアを開けたらいきなり、何の前触れもなく兄が立っているビックリ場面。ここはさながら異界からやってきたようで、かの有名な『関東無宿』(63年)では賭場の座敷の障子がバタッと倒れると奥には真っ赤なホリゾントが目を覆ったが、「清順映画」も「清太郎映画」も扉一枚を挟んで、こっち側とあっち側とではきっと、別の時空が広がっているのだと思う。


貨車シーンの比較画像。左:『勝利をわが手に-港の乾杯-』 右:『東京流れ者』©日活

あと、もうすでに、アジトや出てくる酒場のセットの組み方からして、のちの「清順映画」の過剰にデコラティブな匂いがしている。むろん、清順=清太郎なのだから、至極当たり前のことなのだが、何故だか「清太郎時代の作品」というのはあまり語られてはこなかったのだった。ちなみに1958年、改名するまで「清太郎映画」は、『勝利をわが手に-港の乾杯-』も含めて6本作られている。全てモノクロでスタンダードサイズ。すなわち順に『海の純情』『悪魔の街』『浮草の宿』『8時間の恐怖』、そして1957年12月に公開された『裸女と拳銃』だ。


『勝利をわが手に-港の乾杯-』撮影風景©日活

『裸女と拳銃』。タイトルがインパクトありだが鷲尾三郎の原作みたいには“裸女”は出てこない。脚色は陶山鉄と田辺朝巳。オープニングから観る者を鷲掴みにする。クラブ“キャンドル”で女性ダンサーが踊りながら「パーン!パーン!」とステージガンを撃つ。そのアトラクションを見ている客たちの中に麻薬王の一味、それからヤツらを追う新聞社のカメラマンと相棒の記者もいる。店を出たカメラマンの前に突如、さっきのダンサーが露わな下着姿のまま走って逃げてきた――助けを求める女。手を差し伸べる男。“巻き込まれ型怪事件”の始まりである。


『裸女と拳銃』(1957年 監督:鈴木清太郎 出演:水島道太郎 白木マリ 二谷英明 宍戸錠)©日活

主人公のカメラマン役は水島道太郎で、記者役は二谷英明。ダンサー役にして本作のヒロイン、クレジットにて“新人”と紹介されるのは白木マリ(後年、白木万理と改名)。事件の展開を少しだけ明かすと、窮地を救ってそのアパートへとカメラマンが送っていくと、待っていたのは死体で、女は消え、通報によって警察が! とにかく、全篇ミステリアスな役柄の白木マリが映画を牽引し、彼女はダンサーとそっくりな(メガネを掛けた)別キャラで再登場して主人公と物語を撹乱しまくる。「清太郎映画」で女性が、ここまでメインとなるのは初だが、「清順映画」ではそれが次第に、顕著となるだろう。何度もコスチュームを替えるのが目に愉しく、現れるたびに人格が変わって見えるような描き方にも魅了される。


『裸女と拳銃』©日活

手法的にはこんな印象的なシーンが! 椅子に腰掛けたヒロインがレコードをかけながら沈思黙考していると、プレイヤーの透明なカバー部分に彼女の顔と回転するレコードが反射し、しかも横にはオーバーラップ、二重写しでもって(心奪われたのか……)主人公の姿が夢想として浮かぶ、という懲りよう。この手法、例えば『肉体の門』(64年)でもいろんなシチュエーションで試みていた。そう。やっぱり「清順映画」の前にまず、「清太郎映画」あり、なのであった。


監督デビュー作『勝利をわが手に-港の乾杯-』撮影時の鈴木清順(清太郎)監督©日活

「鈴木清順生誕100周年記念シリーズ」Blu-ray ボックス発売!


『勝利をわが手に-港の乾杯-』はBlu-ray ボックス「セイジュンと男たち」に、『裸女と拳銃』は「セイジュンと女たち」に収録されています。©日活

Blu-ray ボックス 其の壱 「セイジュンと男たち」

収録内容:Blu-ray6ディスク(7作品)&特典ディスク(DVD)&限定ブックレット
収録作品:『殺しの烙印』[4Kデジタル復元版](1967年)/『けんかえれじい』(1966年)/『野獣の青春』(1963年)/『俺たちの血が許さない』(1964年)/『勝利をわが手に-港の乾杯-』(1956年)/『素ッ裸の年令』(1959年)/『らぶれたあ』[4K版](1959年)/特典ディスクDVD

特典ディスク収録内容(DVD)
●鈴木清順監督初出インタビュー(聞き手:リピット水田堯 収録日:2014年10月26日・10月29日)
●『殺しの烙印』監督インタビュー(聞き手:上野昻志 2001年発売DVD(DVN-26)収録映像の再収録/収録日:2001年8月8日)
●『殺しの烙印』1967年幻の劇場公開版・修正マスク映像【現在のマスターとの比較映像】
●『野獣の青春』監督インタビュー(聞き手:上野昻志 収録日:2001年8月8日/2001年発売DVD(DVN-28)収録映像の再収録)
●『野獣の青春』監督インタビュー(聞き手:上野昻志 1990年11月チャンネルNECO放送「スペースシアター・鈴木清順監督特集」)等。

●音声特典:音声コメンタリー 鈴木清順監督・真理アンヌ/聞き手:轟夕起夫 ※既発DVDボックス同作品に収録されていた音声の再収録。

●封入特典:限定ブックレット(全52P装丁/ 清順監督使用秘蔵台本復元ブックレット 解説:上島春彦)

●各ディスクに予告篇・ギャラリーを収録(SP2作品・特典DVDを除く、予告篇マスターの現存しない作品は収録されません)
●特製アウターケース、ピクチャーディスク
※特典ディスク映像はSD画質になります。(一部を除く)
※仕様や特典は予定となります。予告なく変更する場合があります。

発売日:2024年1月10日(発売中)
価格:33,000円(税込)
発売元:日活
販売元:ハピネット・メディアマーケティング

商品詳細
https://www.nikkatsu.com/package/HPXN-319.html

Blu-ray ボックス 其の弐 「セイジュンと女たち」
収録内容:Blu-ray6ディスク&特典ディスク(DVD)&限定ブックレット
収録作品:『河内カルメン』[4K版](1966年)/『肉体の門』(1964年)/『春婦傳』(1965年)/『関東無宿』(1963年)/『悪太郎』(1963年)/『裸女と拳銃』[4K版](1957年)/特典ディスクDVD

特典ディスク収録内容(DVD)
●鈴木清順監督×青山真治監督 対談トークイベント(2001年3月24日テアトル新宿「鈴木清順レトロスペクティブ STYLE TO KILL」上映時撮影)
●鈴木清順監督×木村威夫(美術監督)対談(収録:2006年/既発DVDボックスリリース時製作「清順監督50周年記念キャンペーンDVD」収録映像)
●『肉体の門』監督インタビュー(聞き手:上野昻志 1990年11月チャンネルNECO放送「スペースシアター・鈴木清順監督特集」)
●『悪太郎』監督インタビュー(聞き手:上野昻志 1990年11月チャンネルNECO放送「スペースシアター・鈴木清順監督特集」)
●『関東無宿』監督インタビュー(聞き手:上野昻志 1990年11月チャンネルNECO放送「スペースシアター・鈴木清順監督特集」)等。

●封入特典:限定ブックレット(全52P装丁/ 清順監督使用秘蔵台本復元ブックレット 解説:上島春彦)
●各ディスクに予告篇・ギャラリーを収録(特典DVDを除く、予告篇マスターの現存しない作品は収録されません)
●特製アウターケース、ピクチャーディスク
※特典映像はSD画質になります。
※仕様や特典は予定となります。予告なく変更する場合があります。

発売日:2024年3月6日
価格:33,000円(税込)
発売元:日活
販売元:ハピネット・メディアマーケティング

商品詳細
https://www.nikkatsu.com/package/HPXN-320.html

▼インタビュー「鈴木清順監督が使用した、書き込みだらけの台本を読み解く!」もお読みください。
https://www.nikkatsu.com/focus/vol23.html

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