部屋の窓からベランダに出た。このベランダからは清彦くんの部屋が見える。カーテン越しに明かりが見えているだけで、ちょっと幸せな気分になる。でも今日の窓に明かりは見えなかった。清彦くんはすでにこの家を引き払い、避難しまったのだろうか…。
彼のことを好きだと、はっきり意識していたわけではなかったけど、やっぱり私は彼を特別に思っていたのだなと、今になって気が付いた。彼の励ましの一言を、私がいまだにうれしく思っていることなど、清彦くんは知らない。彼にとって私はただの隣人だろう。
もう会えないだろうが、せめて電話でもいい、彼と話がしたかった。ずっと前に番号を交換したきり、彼に電話したことはなかった。そのナンバーを初めてプッシュした。コール音がする。でも電話はつながらない。何度も何度もかけなおす。単調なコール音を聞きながら、私は泣き出していた。生まれてこのかた隣に住み、チャンスは腐るほどあったのに、思い続けたたった一人にさえ、それを伝えることなく死ぬのだ。
がっくりと力が抜けて、声をあげて私は泣いた。人目を気にすることはない。もうすぐ、この街は壊滅する。
「上野さん!」
「清彦くん!」
ベランダの下の道に清彦くんが立っている。
もう予定時刻になっていた。私は急いで部屋を飛び出した。階段を駆け下り、玄関を出る。
その瞬間、遠くの方でドンドンドンと腹の底に響くような音がした。
清彦くんが私を壁に押し付ける。よろけて私は座り込んだ。その上から彼が私に覆い被さる。清彦くんが私を守ろうとしてくれている。死を前にして、私はとても穏やかな気持ちだった。
もう怖くはない。見届けてみせる。
閉じていた目を開くと、
澄んだ夜空に、大きな大きな花火があがっていた。
隣の国からのプレゼントは、三万発の花火だった。
終
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