作品テーマ 花火 2007年9月
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■PROFILE

越川 里子
Satoko Koshikawa


日活芸術学院 映像科一年 愛知県生まれ

入学前は映画館でバイトしていました。


現在、我が国と隣国は休戦中である。今年、休戦五十周年を迎えるが、休戦を解き、友好関係を結ぶことは、まだ遠い未来になるらしい。政府は、五十年目を節目に、また隣国が攻撃を開始するのではないかという見方を示し、連日報道が過熱し続けていた。

私はまだ十八年生きているだけで、自国が「休戦中」であるという自覚を持たずにいる。五十年前までは戦場だったという話を聞いても、その傷跡がすっかり覆いつくされた街並みからは、その悲惨さは伝わってこなかった。それでも来年から弟は入隊し、軍事訓練を受ける。やはり、いつ再開するとも知れない状況だった。
報道によれば、隣国は貧困の一途をたどり、秘密兵器を作り出すことだけに情熱を傾けているという。専門家の見立てによって解説される被害予想は、人々の心を乱し、特に国境沿いに位置する私が住むこの街には、誰も助からないという絶望感をもたらしていた。
そういうわけで、この街からは引っ越す住民が増えていた。隣に住む清彦くんの一家も、明日引っ越すらしい。さっき、おばさんが挨拶にきていた。幼馴染の清彦くんとはここ数年、まともに会話すらしていない。それなのに、私の気持ちは揺れていた。

そして、今日は、休戦五十周年の日だった。
臨時ニュースが始まった。隣国から、「プレゼントです」との声明が出され、「一時間後に届く予定です」と予告されたという。隣国から受信した何かの発射装置を映し出し、いかに非常事態であるかを伝えている。被害予想を示す赤色が、私の街を中心に国の半分をすっぽり覆っていた。助かる術がないことは明らかだった。
無言でテレビにかじりついていた弟が母にくってかかる。
「早く!早く、逃げないと!」
「どこに行くっていうの」
「とりあえずここから離れよう!」
「お父さんを待たないと」
「のんきに待ってる場合か!」
母の冷静な応対に弟はさらに興奮している。大声が時々涙声になっている。私は二人のやりとりをよそに、波立つ心と実感できないでいる頭を抱えて、容赦なく進む時計の針を見つめていた。時間はすでに五十分を切っていた。 
「助からないのはわかっているでしょう!」
ついに母が本音を吐いた。
「だからって、こんな時に家にいるなんて!南に行けば助かるかもしれないんだぞ、あきらめきれるか」
明らかなる事実を突きつけられて、弟の声は急に弱々しくなった。無言の時が流れていったが、父は帰ってこなかった。じりじりとした空気が流れ、やがて母が口を開いた。
「あんたたち、好きにしなさい。もうお父さんは待たなくていいから」
時間は三十分を切っていた。真っ赤な目で母を睨みつけながら
「今更おせえよ!」
改めて怒りをぶちまけながら、弟は自室に入っていった。私は母の無責任な発言を責める気にはならなかった。誰だってどうしていいかわからないのだ。呆然としている母にかけるべき言葉も思いつかず、
「お父さん、帰ってくるといいね」
とだけ言って、私も自室に引き上げた。母は最後の時くらい、家族一緒に過ごしたいと思ったのかもしれない。でも私は一人になりたかった。
一人になって、私はふと清彦くんの助言を思い出していた。
まだ小学生のときだった。
「怖いからと目をつぶっているより、しっかり見ていた方が意外と怖くないんだよ」
学校で予防接種が怖いと言った私に、清彦くんはなだめるように優しく言ってくれたのだった。口数の多くない彼の貴重な一言を、私は大事に胸にしまっていた。今は注射なんかとは比べ物にならないくらい切羽詰った状態だけれど、なんだか心強い一言に思える。
息が詰まった私がいっそのこと外に出てみようと思った。家の中に閉じこもって目を背けても、それは確実にやってくるのだ。そう、清彦くんが教えてくれたじゃないか。


 
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