この言葉から十五年近くの時が経ち、私はもう三二。
彼が迎えに来る気配は一向になく、現在もデビューに向けて地道に頑張っているとは彼の年齢的にも思えなかった。
彼を追って私も東京に出た。貧乏ながらも売れることを夢見て、街角でギターを片手に歌っている人を見ると近藤君と重ねてしまいどうしても放っておけなくなり結果、今回のようなことになってしまう。
――今年の年末はいつもより早く、実家に帰ろう。
窓の外に目をやると、白い雪が舞っていた。
「――あっ、雪だ」
こたつの上に広げられた何枚ものお見合い写真から話を逸らそうと、窓の外を眺める。
「ほだな、雪だて降るべしたな。こごは東北だもの。んだがらよ、一回でいいがらお見合いしてみでけろちゃ」
実家に帰ればいつもこうだ。それだけ、自分も年を取ったということ。
「お母さんだって、美奈子の幸せば願って言ってるんだがら。――もしかして、あんたいい人でもいるの?」
私は返事に困り、押し黙ってしまう。
「やっぱりいねんだどれ。あんた、もしかして高校の時の約束ばまだ信じったのが?」
私が結婚に前向きではないことの理由を母も知っていた。
「――そんなんじゃないよ」
嘘だ、世間に純愛ブームが来る遥か前から迎えに来るあてもない彼を私は待ち続けていた。
「美奈子、恋想花火って知ってる?」
母の説明では、この地方に伝わる叶うことのなかった想いを花火にこめて冬の澄みきった空に打ち上げられる花火のことだという。
その昔、花火師の男が好きになった女を諦めきれずその想いを尺玉の側面にびっしりと書いて冬の夜空に打ち上げたことから、そう呼ばれることになったらしく、美奈子も小さい頃にその話を少しだけ聞いたことがあった。
「お祓いだと思って、一度行ってきなさい」
そう言った母の顔はいつになく真剣な顔で、我が子の幸せを願う想いが伝わってくるようだった。
次の日、私は母に言われるがまま花火師の家の地図を見ながら車を走らせていた。
しばらく車を走らせ林を抜け、目的の場所に着く。工場と思われる小さな建物の隣に、プレハブ小屋が建っていた。その横に【恋想花火受付中】と看板が出ている。
「あの、恋想花火をお願いしに来たんですが……」
石油ストーブで暖められた室内にコーヒーの香りが漂っていた。その奥でテレビを見ていた作業着姿の男性が振り返る。
彼が振り返った瞬間、私は金縛りにあったように身動きが取れなくなった。
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