四月。高校の入学式に出席したアカネは、新生活への期待に胸を弾ませていた。志望校であった学校に入学できたことが嬉しくて仕方がなかった。新しい友達、恋愛、部活動と、やりたいことが山ほどあって、アカネの頭の中の、これからの生活はとても忙しく、充実していた。
クラス分けが発表され、アカネは教室へと向かった。
同じ中学から一緒にあがった子は別のクラスだったため、少し心細かったけれど、すぐにそんな気持ちは吹き飛んだ。アカネが席につくと、後ろの席に座っていた色白の女の子がニコリと笑いかけてきたからだ。
今までのアカネの友だちにはいないタイプの、華奢で控えめな印象だが、どこか落ち着いていて、柔らかな雰囲気の子だった。
その子はまたニコリとほほ笑み、
「おはよう」
と言った。名前はサオリだと言う。その笑顔とたたずまいが、アカネにはとても魅力的に感じられ、すぐに好きになった。
学校生活も一ヶ月を過ぎると、もともと社交的なアカネは、新しい友たちに囲まれることが多くなったが、控えめで大人しいサオリは、アカネ以外で特に親しい人はいないようだった。タイプがまるで違う二人だったが、お互いに初めて高校でできた友人だったため、大切な存在で、とても親しくなった。
だが、六月に入って頃から、サオリは学校を度々休むようになった。生まれつきの持病があるのだという。アカネはそんなこと全く気がついていなかった。親しいつもりでも、知り合ってまだ二ヶ月と経っていないのだ、と実感した。
そして、ここ最近サオリが来ていないなとアカネが思い始めた頃、サオリが入院した。そう担任の教師から告げられたのだ。
教師は、サオリが唯一親しくしていたアカネを呼び出し、「見舞ってやれよ」と入院先を告げた。サオリは想像以上に重い病気を患っているらしかった。
その日は授業もうわの空で、学校が終わるとその足で病院を訪ねた。
ナースステーションで教えられた病室の扉を、アカネはおそるおそる開いた。ベッドをカーテンで囲った病室の中は廊下の騒がしさと打って変わり、シンと静まりかえっていた。
ベッドに人影が見えた。緊張していたアカネは、もう一度ネームプレートでサオリの名前を確認し、ごく小さな声で、
「コンニチハ」
と言ってみた。すると、そのカーテンの奥から、
「アカネちゃん? 入ってきて」
と、サオリの声がした。
アカネがカーテンの中に入ると、ベッドに座って、あの入学式の日に見せた同じ笑顔で、サオリがいた。顔色もよく、思ったほど悪くなさそうだ。
「元気そうで安心した。すぐに退院して学校へ来られるでしょ」
ほっとしてアカネが声をかけると、サオリはニコリと笑って、
「そうだといいな」
と返した。一瞬、サオリは目を伏せ、寂しそうな表情を見せたが、アカネは気がつかなかった。
それから、アカネは十分あまり学校で起きたあれこれを面白おかしくしゃべり、サオリを笑わせた。
話も尽き、帰ろうと扉を開けると、ちょうど前に女性が立っていた。品の良さそうなその人は、アカネを見るとニコリとほほ笑んだ。その口元がサオリにそっくりだった。
「あら、サオリのお友達の方? 来てくださったのね」
と言うと、アカネを玄関まで見送ってくれた。
そして、アカネの両手をとり、
「あの子にとっては、こうやってお友達が来てくださることが一番の薬ですから、また是非来てくださいね」
と、アカネが驚くほど深々と頭を下げた。
アカネは少し面食らったが、「ハイ」と答え病院を出た。まだ六月だというのに、外は暑かった。
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