作品テーマ 2007年7月
≫「ビニール傘チルドレン」 佐藤壮一
 


■PROFILE

佐藤 壮一
Soichi Sato


日活芸術学院 映像科1年
1981年 福岡県生まれ

育ての親はスピルバーグとバーホーベン。
あぁ、ハリウッド万歳。
好きな言葉は全米初登場NO.1!
総製作費1億ドル!
マトリックスを超えた!?

【特徴】
お酒を与えると無敵状態となります。

【自分の色】
基本的にイエローですが、よくタイのキックボクサーと間違われます。よってジグロです。

【まとめ】
久留米!久留米!久留米!


その昔、この国に黒い雨が降った。
何日も、何日も、黒い雨は降り続き、黒い雨を浴びた人間は次々に死んでいった。残った僅かな人間達は、国をすっぽりと覆うほど巨大で半透明なドームを作った。
ドームは大変優れたもので、黒い雨を完全に防ぐことが出来た。死にかけていた国は再建を果たしたが、その代償として空を失った。
黒い雨以降に生まれた世代を大人たちはビニール傘チルドレンと呼んだ。確かに、この国の衛星写真は巨大なビニール傘を差しているかに見えた。
僕は20年前の8月15日、この国にドームが出来た日に生まれた。僕は大人たちへの反抗の意味を込めてビニール傘を持ち歩いた。降ることのない雨を待って。

「8月14日水曜日、今日の天気はいつものように曇りです。」
最近の調査で黒い雨がすでに止んでいることが分かってから、テレビでは連日のようにドームについての議論が続いている。
大人達はドームを取り壊すことを頑なに拒み、怒ったビニール傘チルドレン達の抵抗運動は段々とエスカレートしてきていた。
突然、テレビの映像が乱れて画面が真っ白になり、ビニール傘の絵とFOUの文字が浮かび上がった。
「ザー、今晩0時、傘の広場にて雨が降る、ザー、革命の同士達よ、決起せよ、ザー、繰り返す、今晩0時、ザー」
フリーダム・オブ・アンブレラ、通称FOUは若者に熱狂的に指示される最も過激で最も巨大なレジスタンスだ。
しばらくお待ちください、と表示された後、テレビは何事もなかったかのように通常の放送へと戻り、僕も学校へ出かけた。
通学路で僕は優子と会った。優子は大学の同級生で、付き合ってもう3年になる。明日の僕の誕生日まで、今夜は一緒に過ごす予定だ。
大学に着くと、今朝のテレビジャックの話題で持ちきりだった。
それは2限目のことだった。キャンパスに1台のパトカーが入ってきて、みんな窓から身を乗り出して騒いだ。 優子のほうを見ると、優子が青ざめた顔で立っていた。優子は僕に黒い折り畳み傘を渡し、廊下へと走って行った。僕は優子を追いかけたが、優子は数人の警察官に取り押さえられ連行されて行った。
僕は訳が分からず呆然と立ち尽くした。
優子は夜になっても帰って来なかった。
僕は優子から受取った傘のことを思い出した。バッグから取り出し、開こうとすると中から時計の針の音が聞こえるのに気づいた。
僕はその音を聞いて理解した。優子はいつも、一度でいいから空を見てみたい、と口癖のように言っていた。熱心にその手の本を読み、よくレジスタンスの集会にも参加していた。
そうか、優子はFOUの一味だったんだ。
その時、家のチャイムが鳴った。窓の外を見ると、パトカーが止まっているのが見えた。僕はとっさに優子の傘を持って、裏口から逃げ出した。警察も逃げたことに気づき追いかけて来た。
時計を見ると、11時半。僕は傘の広場へ走った。
傘の広場に着くと、空を望む数百万もの人々が機動隊と揉み合っていた。群衆は巨大な渦となり、この国を覆う巨大なドームを支える柱を取り囲んでいた。
僕は叫んだ。「どけー!爆弾だ!」
僕はドームの中心へと走った。
その時、パーンという乾いた音が聞こえた。
群集は蜘蛛の子を散らした様に逃げ惑った。
僕も逃げようとしたが足が動かない。ふと自分の体を見ると、Tシャツのわき腹部分が赤く染まっている。振り返ると、機動隊の一人が僕に銃を向け、銃口からは白い煙が上がっていた。
僕はその場に倒れこんだ。機動隊員が一斉に覆い被さってきて、僕は地面に押さえつけられた。
機動隊員が僕の手から傘を取り上げ、開こうとした瞬間、傘の広場の中央にある大時計が鳴り出した。
0時だ。
傘の中からピピピピッというタイマー音が鳴り出した。
機動隊員は「伏せろー!爆弾だ!」と叫び、傘を天高く放り投げた。天高く放り投げられた傘が上空高くでパッと独りでに開いた。傘の広場にいた人間が皆その場にうずくまった。
その時、傘から音楽が流れてきた。
それは誕生日のマーチだった。
数百万人の群集が見守る中、機動隊員に取り押さえられ地面にへばりついている僕の目の前に、開いた傘がゆっくりと舞い落ちた。傘の手元には以前から僕が欲しがっていたオメガの腕時計が結び付けてあり、時計からは誕生日のマーチが流れ続けた。
その日、この国に雨は降らなかったが、優子は腕時計の万引き容疑で停学2週間と保護観察処分となり、僕は全治5ヶ月の大怪我を負い、危険因子として警察にマークされることとなった。

                                     終
   

 
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