一人の男が歩いている。
彼は夏休みを利用して田舎にある母の実家へとやって来ていた。
久しぶりにやって来た町は田舎らしい田舎の姿をしていた。
朝はカラリと晴れていたため傘は持って来なかった。ポツリポツリと雨が降ってきた。
家まではまだ一時間ほどある。
「濡れると厄介だなぁ」
おそらくこれが最後のコンビニである。
コンビニといっても24時間営業ではなく9時ごろには閉まってしまうような小さなコンビニ。
寄るべきかと悩んでいるうちに通り過ぎてしまった。
そこから100メートルくらいのところで雨は強さを増した。
夕立が本降りを迎えてしまったのだ。
「マジかよ」
彼は走ってコンビニへと戻った。コンビニには店員のほかに一人の客が居た。その客の手にはこのコンビニ最後のビニル傘が握られていた。
「マジかよ」
その客はこちらを見るとニヤリと笑いレジへと向かった。
ニヤリと笑った意図を彼はまだ知ることが出来なかった。
「傘ってあります?」
店員の答えは彼を喜ばすことは出来なかった。田舎の小さなコンビニに在庫は無かった。在庫を抱えるくらいなら仕入れたりしないのである。
「よかったら傘貸しましょうか?」
店員は家にある傘を貸してくれるらしい。ありがたく傘を借りる事にした。
昔、客が忘れていった黒い傘。
「後で返しに来ます」
ついでに買った炭酸飲料を一口飲んだ。
傘を差し歩き始める。それから1キロくらいのところで、後ろから足音が聞こえてきた。
ピチャピチャというその音は人にしては軽い。
人じゃないとしたら。彼は思い切って振り向いた。
「?」
振り向いた先にいたのはさっきコンビニで傘を買っていた客…いや背格好は同じだったが顔は緑色でクチバシが…。
「河童」
思わず冷静な声で指を指しながら言ってしまった。河童は近づきながら何か言っている。
「…傘返して」
河童は傘を持っている。
さっき買ったビニル傘をしっかり握っている。
彼は一歩も動けなかった。河童に傘が必要なのか。
普通、河童は水を好む生き物のはずだ。
「傘返せって言うてるやろ」
突然のニセ関西弁に呆気に取られた。
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