―2番線に電車がまいります。黄色い線の・・・・・―
ハルは、ホームに立っていた。毎日2時間かけて、電車で学校に通う。この2時間は、ハルにとって貴重な睡眠時間。電車で座るために、20分前に来て一番前に並ぶ。そして、隣には、毎日必ず同じ男の人がいた。40代後半くらいの痩せ型のおじさん。いつも黒いバックを持っているどこにでも居るようなサラリーマン。ハルは、高校に入って3年目。気付いたときには、いつも隣にはその男の人がいた。今では馴染みの光景だった。
ハルは母親と2人暮らしで、父親を知らない。
母親のサキは、いつも明るく笑顔が絶えない人。でも、それが父親のいない寂しさをハルに感じさせないようにするためだと、ハルにはわかっていた。父親はハルが生まれる前に事故で死んでしまったと聞いている。しかし、父親の写真やモノが無いことに、ハルは疑問を感じていた。でも、サキがハルを大切に思っていてくれているとわかっていたから、ハルが父親のことを聴くことはなかった。
駅の出入り口、ハルは悩んでいた。それは、雨が降っていたからだ。部活の道具を濡らすことは出来ない。だが、雨は一向にやむ気配はない。ハルは、意を決し、道具を抱えて走ることにした。そして、走り出そうとしたその時だった。
「傘忘れたの」
後ろから声がした。振り返ると、男の人が立っていた。毎朝ホームで隣りに並んでいる、あのおじさんだった。
「よかったら、この傘使って。朝返してくれればいいから」と言って、傘を差しだした。
「遠慮しないで。毎日会っているんだ。知らない仲ってわけじゃないだろう」といって、男は微笑んだ。
なぜか安心できるその笑顔を見て、ハルは傘を借りることにした。
歩いている間、ハルはなぜか満たされた気持ちだった。ふと傘を見上げた。赤色のチェック柄の折りたたみ傘。ハルは、笑ってしまった。あのおじさんより、私が持っているほうがあっていると思った。
翌日、昨日の雨がうそのように晴れあがった。ハルは、昨日の傘を持って、男を待った。
「おはよう。昨日は大丈夫だった?」
「おはようございます。昨日はありがとうございました。とても助かりました。」そう言って、ハルは、傘を返した。
その日から、ハルとその男は話しをするようになった。ハルが学校のことや家のことを話して、男は相槌を打つだけだった。だけど、ハルにとっては楽しい時間だった。
それから1ヶ月ほどたった日のこと。男がホームに現れなかった。そして、次の日もハルは男に会えなかった。
おじさんを見なくなって10日後。1通のハガキが送られてきた。サキとハル宛のお葬式の通知だった。
・・・・・本田達也・・・・・
ハルには覚えのない名前だった。
仕事から帰ってきたサキに、ハガキを渡した。
「お母さんの知り合い?なんで私の名前も書いてあるの?」
サキの顔からは笑顔が消え、血の気が引いていった。ハルは、今までこんなサキを見たことがなかった。
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