作品テーマ 2007年7月
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■PROFILE

畠山 誠史
Masashi Hatakeyama


日活芸術学院 映像科1年
1984年 横浜生まれ

不器用な人間が好きです。普通に生きたいと思いながらも、中々器用に生きれない人間が好きです。自分が映画を作るのならば、誰にも頼れないところで必死に生きている少年少女の為に作っていきたいです。

【好きな映画】
「アメリカンビューティー」
「ナイトオンザプラネット」
「未来世紀ブラジル」
「8 1/2」
「2001年宇宙の旅」
「ゴーストワールド」
「博士の異常な愛情」
「タクシードライバー」


男は傘を買い終わると、一階へと降りた。すると、出入口横のパン売場に、またあの母子がいた。照明が切れてるのかパン売場は薄暗く、外の雨も重なって本当に暗かった。目をこらすと、母が腰を曲げ、娘の目線で一緒にパンを選んでいた。楽しそうだった。さっきの想像をした自分が、とても最低な人間に思えた。
外へ出ると、たくさんの濡れた葉が道を敷いていた。男は高座渋谷の駅まで戻ろうと歩いた。すると、後ろのほうで水のはじける音がした。さっきの母親が、水たまりの上に転んでいるのだった。母親は全身ずぶ濡れになり、その困った顔を笑ってごまかしている。飛び散ったパンは、すべて濡れてしまっていた。男はふやけたパンを拾いあつめてやった。そのパンの感触は、このあともずっと手に残った。どうやら母子は、傘が無いから走って帰ろうとしたらしい。傘を買えばいいと問うと、高いからねと申し訳なさそうに半笑いで返した。このまま別れては格好つかぬから、男は自分の傘でこの母子を送り届けてやることにした。窮屈そうなその光景はさぞおかしかったろう。同じ傘に入っているのは赤の他人の母子だ。会話はただ母親の「ほんとうにすまないね」の謝られ通しで、男は困った。その間も娘は二人の真下、ステップ刻んで楽しそうに踊っていた。

母子の住むマンションは、肌色もかすんで古びていた。磯くさいようなにおいが、雨のせいで強い。母親は男を家の中に招いた。「お礼しなきゃ」と。男の片手にはずぶ濡れのパンの袋があったので、渡すにも汚く渡しづらいので、ひとまず家にあがって降ろす方を選んだ。そうして、いきなり他人の世界に入り込んだわけである。
部屋は掃除もろくにしてないようで、物が雑多にほうられている。男の綺麗好きな性分とは正反対だったが、それでも冷蔵庫の横についたクマの鍋つかみにはほっとした。母親は買ってきた商品の整理を始めた。居間では娘と二人きりになった。外の雨脚が一段とまたひどくなった。声がほとんど聞こえないため、身振り手振りで遊んでやった。男にとって、つまらないようなことでも娘は笑っていた。父親はいるのだろうか。母親はそのままだった洗濯物に気付き、取り込みだした。男はそのあわてた状況を、娘と一緒に床に座ってぼーっと眺めているのだが、五分に一度、他人の家で何をしているのかまったくわからなくなり、ここは親戚か友人かの家だという錯覚を起こそうとしてみたが、そうするほどに不思議さが増すだけで、結局おもしろかった。
ふと洋服ダンスを見上げると、そこに雛人形があるのに気が付いた。母親が用を終え戻ってくるなり、開口一番それを聞いた。何故しまわないのかと問うと、可愛いからしまえないんですと答えた。五人囃子はいないし、装飾も何ひとつ無い、ただ二体だけのお雛様だから、しまわなくてもいいのかなとも思えた。

おかしなもので、すっかり夕飯までご馳走になるほど話がはずんでしまったのだからしょうがない。雨の音のせいで自然に荒声になるうち、熱でも上がったのだろうか―――。
電車は二時間程前から全線止まっているらしい。まったく帰れないのなら、泊まっていこうかと、冗談で言ったらそうなった。夕飯はあまりにも典型的なカレーだった。自分は何をしてるのだろう。布団は、煎餅布団だから平っこくてお世辞にも良いとは言えなかった。まったく自分は何をしているんだ。電気は、裸電球に無理矢理別の種類のランプシェードを乗せたものだ。電気を消すと、暗闇はますますおかしかった。そして、二三の事を考えるうちに、四つめには夢の中にいた。

 
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