作品テーマ 2007年7月
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■PROFILE

吉川 都和
Towa Yoshikawa


日活芸術学院 映像科1年
1985年 大阪生まれ

【自己紹介】
ジコチュ−。あまり人に興味ないでしょ、とよく言われます。

【特徴】
よく眉間にしわをよせてます。

【好きな動物】
フラミンゴ。ナクル湖に行くのが夢です。


  足を踏み入れた時、以前より床が冷たく感じられた。誰も住まなくなったその家は、凍りついたように時が静止している。
祖母が亡くなって、七年前に亡くなった祖父の部屋も、母と共に整理することになった。
祖父の部屋に入ると黒いケースや、古くて薄いカバーがクローゼットの中にしき詰められていた。
美里はそれらを一つ一つていねいに箱に詰めていく。
"MODERN JAZZ QUARTET" と洒落た字体で書かれたカバー表紙が目に入る。美里が中身を取り出すと、そのレコードは子供の頃に見たままの艶やかさだった。
外で雨が降り始めた。
美里は縁側に出て、雨の音を確かめる。何だか懐かしい感覚。ずっと忘れていた記憶がうっすらと甦ってきた。

祖父は酒飲みで、毎晩リビングの机の上が瓶ビールで一杯になるほどだった。
生きていた頃は、よく祖父と父と伯父の三人で酒を空け、野球の話などして盛り上がっていたものだ。
その時急にコォという、こもった気管の音がした。祖父が急いでティッシュを喉元に当てている。ゴホッゴホッという音が何回かした後、祖父は落ち着き、再びビールを注いで飲み始めた。
美里にはその祖父の背中がとても恐ろしく見え、どんな表情をすればいいのか分からなかった。
喉頭がん――。
祖父を襲っていた病気である。酒とタバコで傷ついた祖父の喉は摘出しなければならない程、がんに侵されていたのだ。
喉が無いので声を出すことも出来ず、祖父との会話は唇の動きを読み取って理解するか、メモを書いてもらうしかない。幼い美里にはそれがとても難しく、自分から祖父に話しかけることが出来なかった。
お酒ばかり飲み、孫に関心がなく、いつも背を向けている祖父。
一体何を考えているのだろう…。
美里にとって、祖父の存在は、近くに寄りたいのに行けない、とても遠い人だった。

ある日、姉と美里で祖父の家を訪れた時、姉と祖母が近くのスーパーへ買い物に出かけたことがあった。
その間は、家には祖父と美里だけである。
張りつめた空気を押しのけ、美里は絵を描こうと思い紙をひろげた。
だが、カラーペンが見あたらない。
美里は思いきって祖父に声をかけてみた。
「おじいちゃん、いつも美里が使ってるペンどこぉ?」
祖父はゆっくりと体をひねり、美里の方を見た。
美里はおびえながら、もう一度たずねた。
「ペンがな、ないねん。どこ?」
祖父は指を指して口を開く。舌が口の中で動いている音がするが、何をしゃべっているのか美里には分からない。
「え、ここ?」
祖父はさっきよりも大きな口の動きをした。
が、まだ美里には分からない。
「ここ?あっち?…そうか!」
と言って見当をつけた引き出しをあけても薬が入っているだけで、カラーペンは見つからない。
「ここ?そっち?」
とむやみに開けていくうちに祖父の様子が変わってきた。眉をつり上げ、鼻を穴をひろげて激しく口の動きを動かしている。つきだした指先がぶるぶる震え、怒っているようだった。
美里は怖くなって泣き出してしまった。 そんな孫の姿を見て、祖父はつり上げた眉を八の字にし、美里の頭をなでた。


 
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