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ドキュメンタリー映画『DARK STAR/H・R・ギーガーの世界』公開記念トークショーで語られた、孤高のアーティスト H・R・ギーガーの素顔とは?
2017年09月13日(水曜日)

孤高のアーティスト、H・R・ギーガーの創作の秘密に迫ったドキュメンタリー『DARK STAR/H・R・ギーガーの世界』が、東京都写真美術館ホールにて9/9(土)より上映スタートするのに合わせ、本編にも登場するH・R・ギーガー財団の作品管理者でありキュレーターのマルコ・ヴィッツィヒ氏が来日。ギーガーとも親交が深く、日本におけるギーガー作品の商品化などに貢献してきた胸組光明氏とのトークショーが開催されました。

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『エイリアン』(1979年/リドリー・スコット監督)の造形で、1980年のアカデミー賞視覚効果賞を受賞したスイスの画家・デザイナーであるH・R・ギーガー。その作品は世界中のファンを魅了し、数々のアルバム・ジャケットにも使用され、多くのアーティストたちに影響を与えてきました。

本作は、6歳の時に父親にプレゼントされた頭蓋骨や博物館でのミイラの恐怖といった創作の源泉、3人の女性パートナーとの出会い、そしてもちろん『エイリアン』誕生秘話も語られる、「H・R・ギーガー財団」公認のドキュメンタリーです。

このたび来日したマルコ・ヴィッツィヒ氏は、本作の映画プログラムの監修(東京都写真美術館ミュージアムショップにて発売)をはじめ、タワーレコード渋谷店8F SpaceHACHIKAIで開催中の【H・R・ギーガー ポスター&アート展】の企画・監修を務めており、ポスター&アート展の展示会レセプション&トークショーにも参加。H・R・ギーガー本人やH・R・ギーガーの作品にまつわる貴重なお話しをお聞かせいただきました。


ギーガーとの出会い、きっかけについて

胸組光明(以下:胸組) 2004年、ハリウッドコレクターズギャラリーでギーガー監修のエイリアンのグッズを作りたくてスイスに渡ったのがきっかけです。エイリアンを通じて、スイスの知人が「ギーガーさんに会えるけど、来る?」との連絡をくれて、すぐさま飛行機のチケットを予約しました。ビジネスミーティングというと普通はホテルなどで打ち合わせをするものですが、ギーガーさんのお宅にお招きいただきました。

持ち込んだエイリアンのグッズについて最初は気に入ってくれませんでしたが、手直しをギーガーさん自ら工房で行ってくれました。どこが違うのかということもスケッチして教えてくれて、彼は作品以外のスケッチは捨ててしまうのですが、その時はお願いをしてサインを貰い持って帰りました。今ではそのルーズリーフへの書きなぐりのようなスケッチが宝物です。私たちが思っているエイリアンは主観的イメージでしかありませんが、ギーガーさんの指摘する違いは全体のバランスにあったと思います。

マルコ・ヴィッツィヒ(以下:マルコ) 子供の頃から母に美術館に連れて行ってもらっていて、12歳のときギーガーのレトロスペクティブに足を運びました。当時はお城や怪獣などが好きだったので、その世界に魅了され衝撃を受け、大学を卒業するまでずっとギーガーのファンでした。

学生時代にレコードジャケットやカレンダー、ポスターなどコレクターを始め、卒業後に作品を買ったのはいいものの資金を使い果たしてしまい、そこからギーガーが作品を売るのを手伝うようになりました。その他にも展示会自体を手伝うなかで、絆を強めていきました。

ギーガーはものを捨てることが苦手で、作品が家の中に溜まってしまっていたので、写真を撮ってアーカイブを残すことにしました。アーカイブを残すことで展示会の際にはとても役に立ちましたが、私がものを整理することをギーガーは嫌がっていました。

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自宅の印象

胸組 とても大きな家で、中に入った時点でギーガーワールドが広がっています。居間にはギーガーさんの作品が掲げられており、その中には世界の作家からの贈り物も見受けられました。2004年の折には庭から噴水を稼働してくれたり、一通り家を案内してくれました。ベッドルームには、自分の好きな作家の作品が並んでいました。

マルコ 絵の雰囲気から、家も暗かったりギーガー自身も意地悪な人と思う方もいるかと思います。実際は、その真逆のシャイでフレンドリーな、良いおじさんのような印象を受けました。カメラを向けると自分のイメージを保つため気むずかしい顔を見せますが、普段はよく笑う人でした。

外に出ると有名なので多くの人に追われてしまい、シャイゆえにネズミのように家の中に戻ってしまっていました。そんな彼にとってあの家は、唯一落ち着いてリラックスできる場所だったと思います。私は背が高いので家にできた蜘蛛の巣によく引っかかりましたが、ギーガーはそれを残したいと言い、よく言い争いになりました。


普段のギーガーについて

胸組 とても緊張して臨みましたが、言葉数は少ない方でした。信頼されている知人を介して会うと本当のギーガーらしさを出してくれるチャーミングな印象ですが、好き嫌いはハッキリしていて、言葉数は少なくても自分の作品にはこだわりのある、イエスノーのハッキリした芸術家でした。

ある時、ギーガーさんがエイリアンの一部で背中を掻いているのを見て商品化の相談をし"ギーガーの孫の手"というのを発売したこともありました(笑)。理解のある人でした。

マルコ 胸組さんがおっしゃったように私も、大学を卒業してすぐの当時無名な自分が有名なギーガーに会うなんて・・と、ドキドキしていました。実際に会ってみるととてもフレンドリーで、高飛車でなく歓迎してくれて安心しました。

彼の作品を買いたかったのですがすぐには売ってくれず、知人を通して説明してもらって買うことができました。そこから自分のコレクションは始まっていきました。世界中の展覧会によく同行しましたが、何千ものメディアが駆けつけてきて、まるでマイケル・ジャクソンと一緒に居るような気分になったこともあります。

なぜ自分のためにこんなにメディアが集まってくれるのか、と言うほど謙虚な人で、どれほど人々に影響を与えていたか本人はわかっていなかったので、たくさんの人に囲まれると縮こまって隠れてしまっていました。そんな彼と仕事をするのは、本当にたのしかったです。


ムギちゃん(飼い猫)について

胸組 今年の5月スイスに行った際も、いました。その際には怪我を負っていましたが、近所の人が薬をくれたりと、周りから愛される猫でした。

マルコ ギーガーにとっても大切な存在です。ギーガーが亡くなった後、ショックだったようで何ヶ月も食べず、ギーガーを探していましたし、鳴き声で悲しみを表していました。ギーガーもカルメンもムギちゃんが家にいるのを気にして、家を空けるのは3日間が限度でした。

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©2015 T&C Film © 2015 FRENETIC FILMS.


監督とギーガーについて、ドキュメンタリーの撮影にあたって

マルコ ギーガー自身、自分が過小評価されているのを理解していたので、自分の作品を多くの人に知ってほしいという思いで、撮影は強く望んでいました。ただ、監督はとても苦労したと思います。彼はシャイでなかなか人に心を開かないので、カメラを嫌がっていました。

ドキュメンタリーを作りたいという監督は今までも多くいましたが、彼を通じてリドリー・スコットについても語りたいとか、ハリウッドに行きたいという人が多かったので、断ってきました。今回はそうではなく、ギーガーについて作りたいということだったので、撮影に臨みました。

二人は最初からウマが合って、初めて家にカメラを招き、みなさんに自宅を見せることを決断しました。なので、この作品は彼のライフスタイルや知人との交流を見られる貴重な機会だと思います。


メインビジュアルにもなっている絵画「Li II」について

マルコ この作品はギーガーにとって最も大切な作品だったので、メインビジュアルに選びました。描かれているリーという女性は、ギーガーの60年代後半~70年代のパートナーであり女神的存在、インスピレーションの源でもありました。

彼女を通していろいろな影響を受け、愛していたので多くの作品を手がけました。ただリーはその間うつ病に悩まされており、死を予言するような絵になったのは、そのような背景があったからかもしれません。

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H・R・ギーガーミュージアムについて

胸組 ミュージアムというと都会にあるイメージがあるかもしれませんが、グリエールという町に出るのに電車だと3時間、車では2時間半ほどかかります。山の上にあるので、町を見渡すこともできます。チーズフォンデュがとても美味しい地域です。ミュージアムは、19世紀にできた建物を改造してつくられたものです。その向かい側にアパルトメントも2階にあって、親交の深い人にはそこを貸し出したりもしていました。(日本人で泊まったのは胸組さんだけかもしれないと言われている)

ミュージアムの記録をしたい旨をカルメンさん(H・R・ギーガーの未亡人/H・R・ギーガーミュージアムの館長)に伝えたところ、鍵を預けられたこともありました。4時間ぐらい歩き回って記録しましたが、通常写真も撮れないミュージアムなのでとても貴重な機会になりました。

マルコ 日本で電車を乗り換える感覚でミュージアムまで来られると思うので、スイスに来た際には是非ご来場ください。ギーガーはもともとファインアートの作家として知られていましたが、『エイリアン』でオスカー賞を受賞してからは、商業的な作家として見られるようになりました。

ご存知の通りエイリアンのデザインでギーガーは有名だと思うのですが、それが影響して80年代からファインアートとして展示をするのが難しくなりました。ギーガーは、それでも多くの人に作品を体験してほしいと願っていたので、自分で美術館をオープンすることになりました。

15年間、美術館のオープンにすべての力を注いできましたが、ミュージアムは彼の多くのファンに作品を体験してもらうためにつくった空間です。追ってギーガーバーも併設しましたが、そちらも人の骨組みに入っていくような体験をしてもらうため、じっくり時間をかけて作り上げました。ミュージアムの外での展覧会では、エイリアンだけでない彼の側面を見られるように作品を選定しています。


最後に

胸組 2014年の彼のお葬式には、世界からさまざまな著名人が来ていました。ギーガーミュージアムの裏にお墓があるのですが、当時は土盛りの上にバラの花が撒かれていて、みんなでお別れをしました。

初めてこの作品を観たときは、人生そのものを率直に語る、自分が会ったことのあるギーガーさんが映っていました。ギーガーをめぐって様々な作品が今までもありましたが、最晩年のインタビューで彼のいろんな心境を知れる作品になっています。

『エイリアン』が自分を有名にしたけれど、それが果たしてよかったのか・・と、以前ポロっと言っていたことを私も強く覚えていて、先ほどマルコさんが言ったようにファインアーティストとしての姿をこの作品からみてほしいと思います。この作品を観ることが出来た皆さんは、良かったと思います、ぜひギーガーミュージアムにも訪れてほしいと思います。

マルコ 彼が生きている間、撮影時も私はずっと一緒にいて、彼が年をとっていっていることはわかっていました。ただ作品を観るまで、ここまで活力がなくなっていっていることには気づきませんでした。

クランクアップあとに亡くなって、なんとなく皆さんにお別れの挨拶をしているのかもな、と思いました。彼の思い出がこの作品には詰まっていますし、これだけ近距離で彼の人間性を生で観られるのは、この作品が最後だと思います。私にとってもいい思い出です。

ギーガー自身ファインアートの作家として作品を知って欲しかった、自分の作品を美術館で多くの人に見てほしいと最後まで思っていました。世界各地で展示会を開いてきましたが、ギーガーのいろんな側面を知ってもらって興味を持ってもらい、また展示が増えていくことを願っています。ギーガーもそう願ったと思います。

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『DARK STAR/H・R・ギーガーの世界』全国順次絶賛公開中!

映画とポスター&アート展、ぜひ併せてお楽しみください!

作品概要
『エイリアン』(1979年/リドリー・スコット監督)の造形で1980年のアカデミー賞《視覚効果賞》を受賞したスイスの画家・デザイナーであるH・R・ギーガー。彼の作品は世界中のファンを魅了し、多くのアーティストたちに影響を与えてきた。本作は、6歳の時に父親にプレゼントされた頭蓋骨や博物館でのミイラの恐怖といった創作の源泉、3人の女性パートナーとの出会い、そして『エイリアン』誕生秘話も語られる、「H・R・ギーガー財団」公認ドキュメンタリー。

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©2015 T&C Film © 2015 FRENETIC FILMS.


H・R・ギーガー ポスター&アート展概要

【開催期間】2017/9/9(土)~10/1(日)
【営業時間】11:00~21:00(最終入場20:30)
【会場】タワーレコード渋谷店8F SpaceHACHIKAI
【入場料】800円(税込)※先着特典としてイベント開催記念のポストカードをプレゼント
*詳細はタワーレコード渋谷店HPをご覧ください。
【協力】H・R・ギーガー財団
【監修】マルコ・ヴィッツィヒ

タワーレコード渋谷店8F SpaceHACHIKAIにて10/1(日)まで開催中!

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『DARK STAR/H・R・ギーガーの世界』関連ニュース

予告解禁/ポスター&アート展開催決定
公開決定


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『DARK STAR/H・R・ギーガーの世界』

★2017/9/2(土)公開★

魂の深い闇の中、孤独に輝く星がある―

監督:ベリンダ・サリン

出演:H・R・ギーガー カルメン・マリア・ギーガー マルコ・ヴィツィヒ ザンドラ・ベレッタ ハンス・ H・カンツ トム・ガブリエル・フィッシャー ほか

©2015 T&C Film © 2015 FRENETIC FILMS.



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