イベントレポート

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大ヒット公開中 『冷たい熱帯魚』 公開対談①園子温監督×高橋ヨシキ氏
2011年02月19日(土曜日)

勢いとまらず、公開劇場を拡大している大注目作 『冷たい熱帯魚』 の大ヒットを記念し、「PUBLIC/IMAGE.SESSION Vol.08:園子温監督トークイベント」 が2月18日(金)に行われました。本イベントは2部構成で、第1部は本作で共同脚本を手がけた高橋ヨシキ氏との公開対談です。

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対談に入る前に高橋氏が「どれくらいの方が既に『冷たい熱帯魚』をご覧になっていますか?」とお客様に質問したところ、ほとんどの方が挙手されました。

高橋 じゃ、犯人の名前言わなきゃ大丈夫ですね(笑)。それより今日園さんに会って、「誰この人?」 と思いました。どうしたんですか?映画がコケて坊主にするなら分かりますが、当たっているのに・・。

園監督 髪がうるさいなーと思って、昨日五分刈りにしちゃいました。

高橋 すみません、うっとおしくて(笑)。

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高橋 それはさておき、本当に意外なヒットでありがたいですね。 「どうせコケるだろうけど、いけるところまでいくしかないな」 と作ったんですよね。

園監督 日本では(コケても)仕方ないけど、海外ではどうか分からないから 「自由にやれるなら、トコトンやろう」 という感じでしたね。僕の場合はその自由さの中でも、特にキャスティングを自由にやれたのがすごく良かったですね。

高橋 日本映画は、多少なりとも有名な人を出さないと成立しないということになっているんですよね・・。

園監督 吹越さんとでんでんさんが主役って、それだけでヤバイですよね(笑)。でも、すごく良かったなと思いました。

高橋 園さんの中で、吹越さんとでんでんさんは、決まってたんでしょ?

園監督 だいたい決まっていました。でんでんさんにひとつ前の作品に出てもらった時 「この人で次は悪役をやりたいな」 と思って。でも、まさかこういう悪役ではなくて、ジャン・ギャランの銀行強盗のようなイメージだったんですけど。

高橋 そんなシブい系ですか?コートの襟立ててみたいな。

園監督 襟は立たないけど(笑)。で、次狙っているのは渡辺哲さん主役とか。

高橋 それもスゴイっすね~。(『冷たい熱帯魚』のように)ポスター全面、哲さんの顔とか?すごい怖いですよね(笑)。

園監督 それ、セコムより効くかもしれないですよね。

高橋 警視庁とのタイアップとか(笑)。「悪いことするな!」 みたいな。

園監督 でも、この(『冷たい熱帯魚』の)ポスターも本当に良いですよね。真っ黒い感じが。最近は白っぽいものが多いので。

高橋 昔の映画のポスターは、ホラーなどのジャンルではなくても、比較的黒っぽかったですよね。だからあまり白いポスターばかりだと不安になるんですよ(笑)。黒っぽい感じが、「何だろう?」 とワクワクしましたよね。そういえば、でんでんさんの顔一面バージョンも僕提案したんですよ。却下されましたが(笑)。確かに、吹越さん(社本)はメガネをかけているからレンズにでんでんさんを写せるけど、でんでんさん(村田)はメガネがないから、でんでんさんの目に吹越さん写しても何もみえない(笑)。

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高橋 ところでこの映画の始まりは、まだ園さんにお話がいくか、いかないかという時に脚本を書いて、とりあえずそれを園さんに渡したところ、ドカッと色んな要素が詰まったものが戻ってきたんですよね。

園監督 元の事件は、あらゆる面でちょっとなぁという感じでどうしようもなくて、でんでんさんの役に全部詰め込んだら偏りすぎてしまうから、一歩引いて、別の色んな要素を取り入れました。それが良いバランスになったと思うな。でも、この映画でこんなに笑ってもらえるとは思っていなかったね。ヴェネチアなどヨーロッパの映画祭で観客がものすごい笑っていたり、試写会でヨシキさんが爆笑しているのをみて、「クレイジーだな」 と思って。で、日本ではさすがに笑いは起きないだろうと思っていたら笑いは起きるし、ヒットしているしビックリしました。でも、ツイッターに 「相当グロいらしいよ」 と書かれていて、それに対して 「このグロ全然大したことねーや」 と書いてる人もいて、この映画が表現していることって、そこじゃねーしって(笑)。

高橋 そういう映画じゃないもんね(笑)。でも、映画をみるモチベーションとしては超正しいと思っていて、変わったものとか、グロとか、ヘンなものがみられるんじゃないかと思って映画館に行くというのはすごく良いと思うし、自分もそれで行きますよ。

園監督 あと、失神したの、鼻血出したのって書いてあったので、ポスターに 「失神者続出」 と入れて宣伝したらいいよね(笑)。

高橋 あと「客席にエチケット袋をご用意します」とか、各劇場に看護師を1名おくとか。でも、それはキワモノ感強すぎるんじゃないですかね(笑)。

園監督 そういえば、本当の話か知らないけど、全米36都市公開決定だとか?それってスゴイじゃない。

高橋 らしいですね。夏にやるらしいですよ。よく「世界に挑む」とかあるじゃないですか?どれくらい世界に挑戦するのか気になって調べたことがあるんですけど、シンガポールと台湾だけというのがありました(笑)。

園監督 そういうの、いっぱいあるよね!スポーツ紙の一面に「全世界○都市配給予定!」とか。

高橋 予定立てるのは勝手ですからね(笑)。

園監督 そういえば、今日は日本アカデミー賞やっていますね。

高橋 来年は、園さん呼ばれるかもしれないですよ?

園監督 『冷たい熱帯魚』で?これで呼ばれたらすごいよね。作品を紹介する映像はどこを使うのか気になる。

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高橋 撮影は去年の1月ですよね?僕も1回現場に行きましたが、山小屋は鬼のように寒かったですね。水を使うシーンがありましたが、あれをやれと言われたら100万円もらっても無理です。だって氷水だったもん。

園監督 いわゆる低予算映画ですからね。でも、この予算でここまで行けるというのがすごいなと思いますよね。低予算だから出来ることもあるんだけど。

MC 先ほどグロいという言葉が出ましたが、そのあたりの表現、血の表現のこだわりについてお聞かせ頂きたいのですが。

園監督 例えば人体を切断するシーンはカットしてあるし、僕もヨシキさんも、スプラッターやゴア映画で人体切断はみすぎてしまったので、今さらね。

高橋 そういう話じゃないですからね。

園監督 だから 「手首切っちゃったぞ。首切っちゃったぞ」 というところではなく、村田の面白さというか、愉快さみたいなものに焦点をあてようかなと思っていましたよね。ヨシキさん的には。僕はあまり愉快とは思えなかったけど。でも、撮ってみたら愉快になったので、そのへんのズレ具合も良かったんだと思います。

高橋 今回の映画は、血の感じでいえば、スプラッターじゃなくてゴア映画ですよね。

園監督 そうだね。血しぶきじゃないもんね。

高橋 風情があっていいですよね。

園監督 僕ね、しぶくのあまり好きじゃないの。しぶき系じゃなくて、流れ系が昔から好きなんですよ。しぶくなら 『ゴッドファーザー』 のような抑えたしぶきがいい。自分の中でしぶき方にこだわりがあって、小さい頃から撃ち合いごっこの時にコップに赤い液体を入れて、撃たれたた時にパッとやるんだけど・・

高橋 細かい遊びですね~(笑)!

園監督 で、みんなは大量にジャーっと出すんだけど、僕はこだわりがあってタラ~っと。どうでもいい話だね(笑)。もうちょっとクリエイティブな話をしないと。

高橋 十分クリエイティブな話じゃないですか。あと血まみれの部屋は、とっても心が和みますよね。冗談で言ってるのではなくて。

園監督 それって世代的なもの?僕らが血が好きなのって。やはり映画でよく血が出ていたからかな。

高橋 それもあるんじゃないですか?園さん僕より10歳くらい上ですけど、昔の映画は良く血が出てましたし、エロもあった。

園監督 テレビで21時からそういう作品をガンガンやっていましたよね?

高橋 で、親と気まずい思いをしながら一緒にみるんですよ。そういうカルチャーが昔はあったけど、今ないですからね。

園監督 最近日本映画ではとんと人が死ななくなったから、人が死ぬって相当異常なことなのかなと思って。だから浮いてるんだろうね。

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高橋 先日たまたまみたツイッターで、ある脚本家の方が 「私が思うに、人が死ぬということを見世物として見せるというのが映画なんじゃないかと思う」とつぶやいていました。本当にそういう要素はあると思いますよ。だって『ゴッドファーザー』だって、人が死ななかったら成り立たないじゃないですか。エンタテインメントなんだから、人くらい死んでもらわないと。

園監督 人が死なないで緊張感を保つのってすっごく高度なことだと思うので、よくささやかな日常で傑作を作ろうと思うなぁと。すごく難しいことだよね。

高橋 それは本当にすごく難しいことですよ。

園監督 さっきも言いましたが、この映画はよく言われている事件だけがベースになっているわけではありません。あの事件は娘なんていないし、社本くんもあんなに良い人じゃないです。だから、あれをベースと言われると、何か違うんですよね。事件そのままでは滅茶苦茶な話になってしまうので、自分の経験や他の色んな事件を織り交ぜて、全然違う話なんですよね。

高橋 そうですね。最終的には全然違う話ですよね。

園監督 犯人の面白さというものだけは、活かしてますけどね。

高橋 熱帯魚に関して言うと、バブル期に高級熱帯魚屋がたくさん出来て、基本アロワナしか売っていないんですよ。あの頃アロワナはそこそこお金をもった人が置きたがる魚NO.1で、調べたら本当に何百万、何千万の値段がつくものがいました。もっと調べたら、「○○地区に生息する幻のアロワナを扱っているのは当店だけ」みたいなところがあって、色々参考にしました。

園監督 で、 「何でうちのお店のことが書いてあるわけ?」 と思われるくらい参考にしていて、駐車場には赤いフェラーリもあって、そこまで同じかと(笑)。「ちなみに行方不明になった店員は?」 と聞いたら、「そりゃいっぱいいますよ」 って(笑)。

高橋 怖いですね~(笑)。

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園監督 さっき、この映画をみてみんな笑っているという話をしましたが、とある方がこの映画をみて 「日本人は怖いと笑って逃げようとする。それが悪いところだ。本当は怖がっているのに、逃避するために笑いに転嫁している」 と言っていました。

高橋 それはうがった見方ですよね。だってヴェネチアでも爆笑だったじゃないですか。だったらヴェネチアでも 「だからダメなんだ!」 と言わないとダメですよね。この映画に来て下さっている平均的な一番の理由は、やはり 「何かヘンなものが観られるらしい」 というところですかね?

園監督 考えられるのは、やはりエログロじゃないですかね。

高橋 だとしたら、それはとっても嬉しいし、本当に良いことだと思いますよ。普通の映画は、何か突出したことをやったらお客様に嫌われるのではないかということを先回りして考えて、例えば人が死ぬと傷つくからやめましょうとか、どんどん引いていった結果残るのは何かといったら、何なんでしょうね?

園監督 でも俳優もCMに縛られて、人を殺せないとかあるしね。車のCMにでたら、映画の中で酔っ払い運転はできないとか。

高橋 だったらCMの女王になったら何もできないですね。

園監督 スポンサー的なものもあるしね。でも、でんでんさんドリンクのCM出てるけど(笑)。

高橋 出てますね(笑)。でも、そんなの混同しないですよね。「あの人車のCMに出ているのに、酔っ払い運転の演技している!」 と文句言う人いないですよ。

園監督 でも、この映画で怒って出てきたおばさんが、チケット売り場の人に 「あの悪いヤツは何ていう名前なんだ!」 と聞いてきて、「でんでんさんと言いますが・・」 と言ったら、「でんでんか!覚えといてやらぁ!」と言って帰っていったそうです(笑)。

高橋 そういうこと、昔もあったらしいですよ。TVで 「おしん」を放映している時に、「あのいじめを即刻辞めさせろ!」と投書が殺到したらしいです。混同しすぎですよね(笑)。

園監督 いろんな意味で、日本映画は薄くなる宿命にあると思うんです。

高橋 ちょっと濃い目に戻したいですよね。だから『冷たい熱帯魚』には、「エログロみたさ」 という正しい目的をもってお客様に来て頂いているのだとしたら、それは本当に良いことですよ。

園監督 でも、自分としては 「エログロ」 がテーマではないというか、そこまで狙ってやっているというわけではないというか。

高橋 逆に言えば、普通のことをやるつもりだったんでしょ?

園監督 特にエロくなったり、グロくなったりするつもりはなかったんだけど。

高橋 特にエロかったり、グロかったりしますけどね(笑)

園監督 でも、これがヒットしたからと言って、それに味をしめて毎回エログロに走ったらちょっとダメかな・・というのはあるな。

高橋 そういえば次回作も出来ているんですよね?

園監督 次回作は『恋の罪』。これは秋頃に公開します。一部にある事件をベースにしてと出ていますが、全く関係ないです!本当に関係がないので、ちょっと迷惑しています。その時期の殺人事件というと、あれかな?と想像されてしまうんですけど、あれじゃないんですよ。

高橋 では、今お客様に言いたいこととしては、「あれにみえるけど、あれじゃない!」 ということですね?

園監督 まったくあれじゃないです!!で、今年はあと6本くらい映画を撮りたいと思っていますが、僕は原作ものをやっていないので、今年は原作イヤーにして、これから撮影するものは全部原作ものにする予定です。4月から撮影するものはマンガ原作で、次は小説原作です。またヨシキさんとも組んで、それは今年できるかどうかというところですが。

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お客様 監督の演出方法について聞きたいです。

園監督 演出は、その現場によって変わってきますね。例えば、ロケ地に行ってみたら、意外と狭いとか、広いとか、そういったことでも変わってきます。熱帯魚屋のシーンでも、お借りした熱帯魚屋が所定の位置に良い魚がない場合は、魚の名前も変わるし、そういった色んな状況によって変わってきます。

高橋 園さんは魚の名前を知らないから、最初すっごい適当な名前で書いていて。

園監督 パピルスとか(笑)

高橋 ピペとかプペとか(笑)。××でいいじゃないですか。

園監督 ××にはしたくないんだよね。

高橋 だから神楽坂さんが水槽をのぞくシーンで、最初は 「すばらしいプペですね」 とか言っていたんですよ(笑)

MC 事前にお客様からお預かりした質問では、社本が吐くシーンについてその理由を知りたいという声が多かったのですが?

園監督 まずは、「排泄は大切だ」 ということから始まったんだよね?

高橋 そうです。脚本に書いていない要望をほとんど叶えてもらっていて、「排泄は大切だ」ということで、そんな人間がみたいですと言いました。

園監督 2時間尺にしろとキツく言われているところカットされないためには、何か理屈がないとダメなので、社本の気の弱さを表現する手段にしました。僕もそうですが、緊張したり、ある種の状況に陥ると、ちょっと吐き気がするという。

高橋 胃が弱いんだ?

園監督 胃が弱いんじゃなくて(笑)、精神的に。撮影の直前になると吐き気がするし、とにかく局面局面で吐き気がおきるというのがあるんですよね。だから社本の状況を説明する言葉ではないものとして、ああいうシーンを入れたと。それは醤油と同じくらい謎めいているんだけど、醤油の方は現実にそうだったんだよというと、なるほどと思われる話なんだけどね。台本を書いていていつも思うのは、現実のすごさというのは、そこに何て書いてあろうと納得せざるを得ない部分ってあるじゃない。映画ではうそーってなるけど、本当なんだから仕方ないじゃんって。

高橋 そういう現実のまぬけさがおもしろいし、今回もそういうところが色々あって、楽しめるんだと思いますよ。それは決して怖いから笑いに逃げているということではないと思います。


共同脚本を担当された高橋ヨシキさんが対談相手だからこそ聞ける、貴重な裏話もたくさんあったのではないでしょうか?

第2部対談相手は、監督と公私共に親交があるというあの方!
第2部レポートも、お楽しみ下さい。


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(C)NIKKATSU

ヴェネチアが沸いた!
園子温、最高傑作にして金字塔的作品誕生!

『冷たい熱帯魚』 [R18+] 

★2011年1月29日(土)テアトル新宿ほか全国順次ロードショー!★
★大ヒット上映中★

監 督 : 園子温
脚 本 : 園子温 高橋ヨシキ
出 演 : 吹越満 でんでん 黒沢あすか 神楽坂恵 梶原ひかり 渡辺哲


★その他の日活ラインナップもご期待下さい★

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