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サンダンス映画祭 監督賞受賞 『闇の列車、光の旅』 キャリー・ジョージ・フクナガ監督来日!
2010年02月11日(木曜日)

長編初監督作品 『闇の列車、光の旅』(2010年初夏公開) が2009年サンダンス映画祭で監督賞に輝き、世界がその才能に注目している、日系4世のキャリー・ジョージ・フクナガ監督が来日され、2月10日(水)セルバンテス文化センター東京にて、シンポジウム付試写会が行われました。

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本作は、貧困ゆえに、危険な旅を強いてでもより良い生活を求める移民の少女と、ギャングという組織の中でしか自分を守ることができない少年が織りなす、中南米の衝撃的な “今” をリアルに描いた、感動のロードムービーです。

移民、そして難民問題は、豊かな島国日本にいては、遠い国の問題と思われがちですが、本年、第三国定住による難民の受け入れ実施がささやかれています。そこで、本作の公開を契機に 「今、世界で起きている現実」 から日本国内における移民・難民問題までも広く考える機会として、本作を監督されたキャリー・ジョージ・フクナガ監督の他、NPO法人難民支援協会事務局長代行の石井宏明さん、MCとしてジャーナリストのシルビア・リディア・ゴンザレスさんにご登壇頂き、貴重なお話を聞かせて頂きました。

フクナガ監督 今日は、移民問題についてお話出来ることを大変嬉しく思っています。皆さまからのご質問や感想をもとに興味深いお話が出来ればと願っています。

― 監督が2005年のサンダンス映画祭で賞をとられた短編 「Victoria para Chino」 は、“17人の移民がトレーラーの中で放置され死亡” という実際のニュースをもとにして作られた作品ということですが、『闇の列車、光の旅』 を作るにあたっては、どのような動機、経験などがもとになったのでしょう?

フクナガ監督 今ご紹介頂いた短編からきていますが、本作を作るにあたっては、様々な本を読み、そして勉強をしました。私は、中南米の人達が国境を越えてアメリカを目指すために、貨物列車の、それも屋根の上に何百人もの人が乗って移動するという危険な現実を知りませんでしたので、驚愕するとともに、それは非常に印象深い出来事でした。そこで、この現実を描くために、もうちょっと長い映画を作りたいと思っていたのですが、なかなかチャンスがありませんでした。しかし、サンダンス映画祭で短編が賞を獲得したことがキッカケで、このように本作をつくることが出来ました。

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― 多くの人が、本作の “ひとつのリアリティ” に印象を受けたと言われています。映画というのもは、フィクションとノンフィクションのコンビネーションになるわけですが、それをどのように組み合わせたのでしょうか?

フクナガ監督 長編映画ですので、どのように構成するかを学ばなければなりませんでした。同時に、“フィクション・ノンフィクションをどのように扱うか” を考えなければなりません。色々調査をし、そして構造化していくという意味では、私が大学の時に専攻していた歴史と同じような研究スタイルでした。
例えば、(映画にも登場する)“マラ・サルバトルチャ” というギャングのメンバー40~50人くらいに会い、ふたつの刑務所で20人弱の人と会い、そして直接移民の人達と接触し、全部で200人くらいの人にインタビューしました。ひとつのデータブックを作るような感じで調査していったのですが、このデータをひとつのストーリーに仕上げるというのは、また違う作業で、それが私にとって一番難しいことでした。
本作の中で、私にとって印象深い役柄があります。ギャングの中にいる少年とホンジュラス出身の移民の少女です。移民問題についてあまり知らない方々にとって、この2人の役柄は、このテーマを考える上で、非常に重要な役柄になると思います。

― 本作は大変リアルなテーマを扱っており、歴史に基づいているのですが、でも完全なリアルではないんですね。例えば映画には結局現描かれなかったけれども、あるシーンのために想定したエピソードのようなものがあればお聞かせ下さい。

フクナガ監督 たくさんのストーリーがありましたが、面白いことも含め、編集でカットしなければならない場面がありました。例えば、“警察の賄賂のやりとりが日常化しているという冗談” から、ギャングの収入源についても時間があればぜひ皆さんにお伝えしたかったです。また、様々なものが違法に取引きされている状況、彼らの出身国で起こっている現実、彼らの人生、生活はどういうものなのか、なぜ人々は危険な状況で旅をするのか、ホンジュラスやグアテマラの状態などなど、お話するべきだたくさんのことがあります。

― 日本人もかつて戦争などの影響でアメリカやブラジルやペルーへ移民した方々がいます。それから出稼ぎ現象がおき、今度は移民した日本人の子孫が仕事だけでなく特別な環境を求めて戻ってきました。また、難民としていらっしゃる方もいます。日本の方々は移民問題に関して、どのような見解をお持ちなのでしょうか?

石井 本作は本当にリアリティのあるテーマを描いている作品だと思います。移民・難民に関するニュースでは、日本人は難民に対して冷たいという印象をもたれているようです。また、“日本人にとって移民は疎遠である” ということもよく言われますが、実は、(大リーガーの)イチローや松井も、“より良い生活・実力を発揮できる場所を目指して外国に発つ” という 「移民という言葉の定義」 を基に考えれば、彼らも移民と言って良いのではないかという解釈ができます。ただ、アメリカの移民数は年間88万人ですが、それに比べて日本は4~50人です。日本では2年前に、移民政策学会が立ち上がったばかりですし、まずこの絶対的な違いの原因を考え、何とかしなければならないですね。

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― 本作は移民がテーマであるとともに、ロードムービーでもありますが、旅に関連したストーリーに特に関心があるのでしょうか?

フクナガ監督 次回作は旅とは関係なく、ほぼ家の中にいるような作品です(笑)。私は、家族の歴史やストーリー、家族の崩壊と再生、父親、あるいは両親と子供との関係というものに関心があります。

― 移民の人達は一緒に寝て、一緒に食べ、大家族みたいな感じですね。ところで、監督ご自身も列車に乗って色々体験なさったそうですが、どのような感情をもたれましたか?

フクナガ監督 私はいつでも列車を降りること出来ましたが、実際の移民の人達はもっともっとずっと困難な状況にあります。彼らには、連帯感、忍耐力、非常に素晴らしい強さがありますが、同時に、大きな問題、困難に直面しています。しかし、それに対していつも希望を失わない。もちろん実際の人生は経済的にとても苦しいものですが、常に戦い続けている、これがとても重要なことだと思います。生活に恵まれている人達には、移民の人達ほど、そのような力がないと思います。だから時々立ち止まり、そして色々と反省し、「私たちが持っているもの」 を再考する必要があると思っています。

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― 原題は、『Sin Nombre』 ですが、そのタイトルをつけた理由は?

フクナガ監督 これ以上のタイトルはないと思いました。本作の調査をしている時、メキシコで読んだ雑誌に、“アリゾナとメキシコの国境に、不法移住しようとしたが亡くなってしまった人達の墓地があり、彼らはパスポートをもっていなかったので、名前が分からず、名前なしで葬られている” という記事をみつけました。そのことがキッカケになっていますが、スペイン語の 「Sin Nombre」 とは、“非常に悪い状態、最悪の状態” のことをも意味する言葉です。

― 最後に、一言ずつメッセージをお願いします。

石井 知人がこんな言葉を言いました。「難民は種のようなもの」 と。水をやらないと、生きられず命の火が消えてしまいますが、水や肥料をきちんとあげれば、きちんと育っていきます。アメリカに比べ少ないものの、移民が増えてきている現在、このテーマは避けるべき問題ではありません。本作を通して、世界や日本で “生きるために死ぬ思いをしなければならない人達が数多くいる” という現実を知って頂ければと思います。

フクナガ監督 私たちはみんな、ひとつの人生を生き、多くのことをすることが出来ると思います。本作は、政治的なメッセージでもなく、何かの回答でもなく、ひとつのストーリーです。ただ、このような映画で、他の人の人生がどういうものなのかを知って頂ければと思います。そして、これを通じて、何らかの問題意識というものをもって頂ければとても嬉しいことです。上映の際には、ぜひ友人の方にも声をかけて頂いて映画館へ足を運んで頂ければと思います。本日は、ありがとうございました。

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『闇の列車、光の旅』

★2010年初夏 TOHOシネマズ シャンテ ほか 全国ロードショー!★

2009年 サンダンス映画祭 「監督賞」「撮影監督賞」 受賞
2010年 インディペンデント・スピリット賞、作品賞、監督賞、撮影賞ノミネート!

ホンジュラス、メキシコからアメリカへ――

国境を目指す少女と少年のはかなくも美しい魂の触れ合いに心震える
中南米の “衝撃の真実” を写した、感動のロードムービー

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監督・脚本 : キャリー・ジョージ・フクナガ(長編初監督)
キャスト : パウリーナ・ガイタン/エドガー・フロレス
製作総指揮:ガエル・ガルシア・ベルナル/ディエゴ・ルナ/パブロ・クルス
原題:Sin Nombre ©2008 Focus Features LLC. All Rights Reserved. 
権利元:Focus Features
2009/アメリカ・メキシコ/シネマスコープ/ドルビーデジタル/スペイン語/96分/PG-12
配給:日活

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