『うなぎ』の時もそうだったが、『赤い橋の下のぬるい水』の主役の女性もなかなか決まらなかった。 美砂で良いと云ったのは私だけだった。

『うなぎ』と同じキャストではないかとか、役所君の「うまさ」とそれが拮抗し得るのかとか日活でもいろいろ取り沙汰され、結論は出なかった。『うなぎ』と同じキャストでも構わない。 そのうち美砂の妊娠問題が出てきた。「構わない!美砂は痩せすぎているからちょうど良い!」と言い張った。

撮影の途中、美砂のセリフのイントネーションについて注意をうながしたことがある。この映画で君は無反省で、攻撃的で、底抜けに明るい方が良いと。

腹中に赤ん坊をかかえていることで女性らしい自信と力を感じることができた。美砂は、スタイルと云い、美貌と云い、特殊な美人女優といえるが、トレンディどころかむしろ平凡な女性と思える。『うなぎ』もそうだし、『カンゾー先生』の下津井の遊女もそうだ。

女優は知的であっても良いが、それよりも薄皮を剥ぐように肉体的な内実の人間そのものの芝居を見せてくれる方が良い。