しろばんば
しろばんば

「主婦の友」に連載され、深い感銘を与えた井上靖の自伝小説を映画化した珠玉の文芸作品。伊豆の奥深くで祖母と二人で暮らす少年が従姉に寄せる淡い恋への憧れと、因襲の中に消えた女の悲劇を描く。

大正四、五年ころ、伊豆の山並みが暗緑の暮色に沈む冬の夕方、綿くずでも舞い散るように白い小さな生きものが浮遊しはじめる。伊豆の子供たちは「しろばんば!」と叫び、この白い生きものを追いかけ廻した。小学二年生の伊上洪作は、妙に人を淋しくさせる、この白い生きものを眺めながら育った。曾祖父の妾だったおぬいと二人で旧い家の土蔵に暮らしている洪作は、おぬいが本当の祖母だと教えられていた。母屋には曾祖母、祖父母、叔母、叔父が住んでいたが、叔母も叔父も洪作と同じ年頃の子供だった。曾祖母は洪作を憎々しげな眼で眺めたが、母屋の祖母たねは洪作を優しくかばってくれた。そして幼い洪作の心を傷つけていたのは、父母が豊橋に住んでいることだった。明日から春休みという日、母屋の叔母さき子が女学校を卒業して帰ってきた。近所の人たちに囲まれたさき子の姿は、洪作にはひどくまぶしかった。新学期、さき子が洪作の通う小学校の教師になると聞いたとき、洪作の心はかすかなときめきを覚えた。彼はわざと教室で乱暴を働き、廊下に立たされることが多くなった。そんなとき、さき子は洪作の頭をこずいたが、さき子のこうした態度に洪作は落ちつくのだった。夏休み、おぬいに連れられて豊橋の父母の家に行った洪作は、おぬいと父母のいい争いをふすま越しに聞いてしまい、おぬいの泣きながら言った言葉が、いつまでも洪作の心に影を落すことになった…。

日本
製作:日活 配給:日活
1962
1962/11/21
モノクロ/102分/シネマスコープ・サイズ/8巻/2769m
日活
【静岡県】伊豆市(湯ヶ島温泉、狩野小学校、長野川、巾着渕、天城山、西平の湯、大渕、、国士峠)