美徳のよろめき
びとくのよろめき
一人の美しく優雅な人妻が倦怠期の訪れとともに邪恋におぼれゆく、美徳によろめく人妻の恋の虚脱を描く文芸巨篇。“よろめき夫人”なる新語が生まれるほどに話題を読んだ、三島由紀夫ベストセラー小説の映画化。
躾の厳しい、門地の高い家に育った節子は親が決めた倉越一郎と結婚し、幼稚園に通う男の子がいる母である。結婚によって“男性”を知り、三年目ころから夫婦のいとなみも間遠になっていた節子だが、ゆくゆくは官能の海に漂うように宿命づけられていた。節子は、結婚前に避暑地で唯一度接吻したことのある青年・土屋を時折思い出した。ほんの一瞬、しかも拙劣であったことが、かえって重要性を高めていた。町で偶然顔を合わす土屋は、引き締った体つき、消極的な風情と抒情的な唇は少しも変っていない。祖母の葬式の日、節子は土屋から誘われたが、わざと約束をすっぽかした。節子は道徳的な恋愛、空想上の恋愛をはじめようと思ったのである。決して許さなければよい。“土屋が相手なら、私の道徳的恋愛は巧く行きそうだ”と節子は信じた。しかし、約束を破ったあとのあいびきで「僕は真裸でご飯を喰べるのが好きなんだ」と言った土屋の言葉に、節子はその夜、床の中で一組の男女が全裸でとる食事のことを官能的な絵図面として空想した。“決して許さない”ことを前提とする道徳的、空想的な恋愛の企てから出発したはずなのに、節子は何度目かのあいびきで旅行に誘った。季節はずれの閑散な山のホテルへ旅に出た二人は、体をぶつけ合うように不器用に結びつき、朝日の差し込む部屋で“例の”全裸の食事を実演した。それ以来節子は会うたびに身体を任せ、月経が来ない不安を土屋に隠して、あいびきを重ねた…。
日本 製作:日活
日活
1957
1957/10/29
モノクロ/96分/スタンダード・サイズ/10巻/2637m
日活
【東京都】千代田区(東京駅改札口、日比谷公園)/港区(新橋駅前)
【神奈川県】鎌倉市(鎌倉駅、横須賀線二等車内、海辺の道、海辺のホテル、大船駅、鎌倉の海辺)
【長野県】軽井沢町