浅井家の人々は長姉妙子の許婚者秋元が今夜訪ねて来るからというので、父親義孝は古美術品の埃を払い、凡そ世俗的で平凡な娘妙子は小うるさい母親みつの言葉にオロオロして、派手な和服を着飾り、弟明もいやいや正装した。中学の女教師で次女の綾子は、物憂げに自分の部屋に閉じこもっていた。やがて、訪れた秋元を迎え、綾子は一瞬その場に立ちすくんでしまった。二年程前、学友とキャンプに出かけた綾子は、夜寝付かれず、ひとり湖畔の散策に出た時、えもいわれぬ口笛の曲に心を打たれ、誘われるがまま口笛のする方角に足を向けると、湖畔に一人の男が佇んでいた。その男は綾子に気づくとそのまま立ち去ろうとしたが、綾子は傲慢なその男の眼差しを見ると、どんな犠牲を払っても、彼を自分のものにせずにはおられない衝動にかられ、綾子は湖水に足を踏み入れた。男は彼女を湖水で抱きしめた。その夜、二人は互いに名前も行先も言わず別れたのだ。その男が妙子の婚約者秋元であるとは…。