つち

内田吐夢が「限りなき前進」に次いで監督する映画で、約一年の製作日数を費した大作。新人風見章子が抜擢されて大役をつとめる。キネマ旬報ベストテン第1位。

あらすじ 妻を失った貧しい百姓・勘次は、初めて野良へ出る娘のおつぎと二人で懸命に畝の間を耕していた。野田で醤油庫の番人をしている舅の卯平も勘次からの知らせで駆けつけたがとうとう娘の死に目にも会えず、真新しい墓標を前にして頬を濡らしていた。働き手の妻に逝かれた勘次は、まだ一人前の働きが出来ないおつぎや幼い与吉を抱え、極度の貧困から卯平とも生活を共にせず相反目していた。ある日、ふとした出来心から、勘次は隣家の平造の畑から作物を盗んだ。激昂した平造は駐在所の巡査まで引っ張り出して大騒ぎをしたが、地主のお内儀さんやおつぎの計らいでどうやら収まったものの、生活の苦しさは以前にも増して激しく、雪に被われた田畑を眺めては喘ぎ暮らしていた。春も過ぎ田植えの始まる初夏が来た。夏になると勘次は疲れ切ったおつぎを励まし、毎日遠い河原から水を汲んでは亀裂を生じた田に注いだ。こうした苦心が報いられて収穫を済ませると、庭の隅に積み上げた米俵に離し難い愛着を感じるのだったが、勘次は世話になっている地主の旦那に早く納めなければ義理が済まぬとすぐ運んでゆくのだった。収穫が済むと淋しい秋である。勘次と折合いが悪いため粗末な小屋を建てて別居している卯平は、寒さが加わるに従って身体も弱り、内職も出来なくなった。西風が冷たく吹く冬の日、野良で働いていた勘次とおつぎは時ならぬ半鐘の音を聞き、火元は我が家と云われて駆けつけてみると、家は既に火に包まれて如何とも手の下しようがなかった。その夜、卯平は村人に助けられて念仏堂に運ばれ、勘次等三人は焼け跡で夜を明かした。数日後やっと片付けられた焼け跡に掘っ立て小屋を作って、僅かに寒さを防いでいる勘次の所へ夜中平造が駆けつけて、卯平が念仏堂から姿を消したと知らせた。驚いた勘次は村人たちと卯平を探しに出た。怖々留守をしていたおつぎは、ふと物音を聞いて外を見ると、少し離れた木の下で卯平がうつ伏せになって呻いていた。帰って来た勘次は卯平の哀れな姿を見ると今まですげなくした自分の仕打ちを恥じて、長い間の反目した感情も快く溶け合うのだった。地主のお内儀さんから雑木林の開墾を頼まれた勘次は。微かながらも前途に光明を覚え、まだ残雪のある開墾地で重い鍬を振るって雑木を伐り倒した。おつぎも手伝っていた。やっと元気を取り戻した卯平も傍の陽だまりに座ってお茶を沸かしていた。空では雲雀が高く鳴いている。もうすぐ春になるのである。

※現存版は巻頭・巻末が欠落した不完全版

日本
製作:多摩川撮影所 配給:日活
1939
1939/4/13
モノクロ/スタンダード・サイズ/15巻/3899m/142分

<ご注意>
戦前の製作作品(1942年以前)は、資料の不足などの事情により、当HPのデータの内容が必ずしも正確なものとは限りません。

日活