vol.9 キャスティング 吉川威史さん

さて、今回は『キャスティング』の吉川威史さんのご登場です。吉川さんはいたずらとダジャレが好きな方です。でも、新しい知らなかった一面も発見しました…お楽しみに!!


【略歴】
佐賀県出身。大学卒業後、熊井啓監督のもと『お吟さま』で助監督見習となる。その後、海外ドキュメンタリーなど多くの作品に参加。1989年の『その男、狂暴につき』でキャスティングを始める。1997年に吉川事務所を設立し、キャスティングを専門とするようになる。

【主なキャスティング作品】
1989年『その男、狂暴につき』
1990年『3-4x10月』
1992年『いつかギラギラする日』
1993年『ソナチネ』
1996年『キッズ・リターン』
1998年『HANA-BI』
1998年『カンゾー先生』
1998年『生きない』
2000年『日本の黒い夏-冤罪-』
2001年『赤い橋の下のぬるい水』
2002年『海は見ていた』
2002年『チキンハート』
2002年『DOLLS』
2002年『座頭市』
など

キャスティングとはどういう仕事なんでしょうか

キャスティングと言うと映画の出演者を決める仕事だと思っている人が多いかもしれませんけれど、そうとも言えないんですよ。実際、最終決定権を持っているのは監督であったり、プロデューサーであったり…僕ではないんですね。だから僕は『キャスティング』という名前を本当は変えたい。『俳優スイセン人』にしたいんです。(笑)

俳優スイセン人…映画のタイトルみたいですね(笑)

新しい言葉が好きなんですよ。タイトルロールに『俳優スイセン人』とあったら、「なんだこれ?俳優スイセン人???」って思うでしょう。(笑)僕の仕事は俳優紹介業。出演者を決めることではなくて、紹介する事だと思っています。僕の会社のホームページにもありますが、僕は回転寿司屋の職人だと書いていますよ。色々な俳優さんを寿司と見立てて皿の上に載せている。食うのはお客さん(監督やプロデューサー)です。イカが好きな人はイカを選びますし、逆にヒカリものが嫌いだと、ヒカリものはいつまでも皿の上でグルグル回る事になるんですね。

と、いう事はお客さん(監督)によって寿司ネタは変わるという事ですよね。だいたい幾つぐらいネタを用意するんですか

勿論、お客さん(監督)によって変わります。ですからお客さん(監督)にまずどんなネタ(俳優)がいいのかを聞いて、それに近い新鮮で美味しいものを用意します。ネタも色々ですが…皿にのせるのは10人ぐらいでしょう。でもね、実際その僕の足元には何百枚ものネタがあるわけです。

10人のうち、僕が考えた一押しの人に決まれば「当たった!!」となりますし、逆に意外な人が選ばれると「そうきたか…」とか思いますね。その都度、楽しかったり新鮮な驚きがあります。3,4番手で考えていた人が、重要な役に抜擢されて上手くいった時も嬉しいですし、僕が推薦した人を使わないで上手くいかなかったりした場合なんかは「ほら、みなさい」と思う事もあります。(笑)

どうして、この仕事を始められたんですか

僕は元々演出部出身で熊井啓監督の『お吟さん』に助監督見習として就いたのがこの世界に入った始まりです。ずっと助監督を続けていたのですが、北野監督の『その男、狂暴につき』をやる時にプロデューサーの吉田さんからキャスティングを頼まれました。それからは助監督とキャスティングを並行してやっていたのですが、ある時、ある監督と喧嘩したんですね。それから「助監督はもうやめよう。もう監督を助けたくない」と思いました(笑)。この世界から離れて、田舎に帰ろうとしたんですけれど、色々あって1997年にキャスティングの専門会社を立ち上げてからは、この仕事に専念しています。

昔はプロデューサーは本作りやキャスティングなど、楽しいところを中心に色々決めていけば出来たのかもしれませんが、今は配給の問題やギャラの事など色々やる事がいっぱいあるのです。それで僕みたいな仕事をする専門の人が必要になったのでしょう。

この仕事が俳優の名前を挙げるだけならば、誰でも出来ます。そうではなく、きちんとスケジュールと予算を厳守した上でやれるか、という事がプロの仕事だと思っています。そういう点で、チーフ助監督の経験が実際の役に立ったのです。

キャストはどの時点で決められるんですか

それは企画の立ちあがりに関係しますね。例えば「俳優のAと女優のBでのラブストーリーもの」と企画が出来た時には、もうメインの2人の役者は決まっているんです。だから僕のところには、それ以外の出演俳優の依頼が来るわけです。信頼されてきますと段々とその選択をまかせてくれるようになります。

旬の役者とはどんな役者でしょうか

それは…正直分からないですね。この俳優さんが「ものになるか」とか「いける」かとかは"運"に左右される事も多いんです。それこそオーディションの順番さえも"運"なんですから。例えば『キッズ・リターン』の金子賢さんは「いくかな」という予感がありましたが、正直、安藤政信さんは、その時はまだよく分らなかったんですよ。

キャスティングの面白いところはどこでしょうか

やっぱり、自分が紹介した人が有名になってゆくという事ですよね。大杉漣さん、寺島進さん、安藤政信さん、豊川悦司さん…豊川さんからは、次の作品に出演が決まった時、直接電話がかかってきましたからね。最初のスイセン人…発見人として嬉しかったですよ。豊川さんは『3-4x10月』でチンピラのオーディションの5人の中にいたんです。皆に同じ「ふざけんじゃねー!!ぶっ殺すぞ」というセリフの芝居をさせたんですが、どの人もチンピラのそんなセリフだから、高いテンションだと思ってがなるんですね。でも、豊川さんだけが静かにセリフを口にしました。それが北野監督の目に止まった。組長役にしようと北野監督が言ったんです。僕が「いや、チンピラで呼んだんですけれど…」と言っても「いいよ、こういう組長もいるんだから」と。

今、活躍中の宮藤官九郎さんも役者よりも脚本家に向いているんじゃないかな、とマネージャーさんに話した事がありましたよ。

これからやってみたいのはどんな作品ですか

人が書いた作品に「本当にこれやってみたい」と思う事は、あんまりない気がしますね。(笑)僕も演出部出身ですから。だから夢はいつか自分の企画をやること。でも、それは撮ったら終りなんだろうとも思っています。だからそういう夢を持っている間はずっとやっているのではないでしょうか。

それから今、英語を勉強しているんですよ。これからは海外からの仕事が絶対来るようになると思います。もう国と国という枠組みは外れて来つつあり、合作が当然のようになってくるでしょう。これからは『地球規模』で製作を捉える考え方になってゆくような気がするんですよね。そういう中で「英語が出来ない」という理由だけで窓口になれないのだとしたら、すごくくやしいじゃないですか。(笑)だから勉強しているんです。

他にも、監督とシナリオライターが出会える場を作りたいと思って、シナリオセンターでガイダンスなどの活動もしています。良い企画があれば、僕に出来る事で後押ししたいですしね。他にも色んな事をしていますよ。何でも新しい事にトライするのが好きなんです。

メッセージをお願いします

出来るだけ若いうちに映画を沢山見た方がいいと思いますね。名作は名作でやっぱりいいものですよ。僕の日本映画ベスト3は『忍ぶ川』(※1)、『8月の濡れた砂』(※2)、『東京物語』(※3)です。20歳ぐらいの頃、女の子を『8月の濡れた砂』を見に行こうとデートに誘ったけれど、ことごとくふられましたね。(笑)

申し訳ないですけれど、私も20歳だったら、お断りしていたと思います。(笑)

やっぱりそうですか。(笑)若かったから、いいものを共有したかったし、僕が好きなものを好きになってほしかったんですよね。

まぁ、僕としてはこれからも人と違う事、新しい事をしてゆきたいですね。「日本で初めて」という事も価値のある事だと思いますから、『俳優スイセン人』は、いずれタイトルにのせたいです。英語だったら『アクター・レコメンダー(Acter recommender)』ですよ。(笑)

インタビュー後記

インタビューを無事終えて、写真をお願いしようとすると、吉川さんはこうのたまうのでした。「え~、写真は恥ずかしいなぁ。顔がばれるのも何だし…じゃ、これ使って」と貸してくださったのが左の写真。一体あなたは…。これが吉川さんという方です。真面目なんだかふざけているんだか不思議な魅力のある方なんですよね。「何でも楽しむ」のがモットーのようで、いつもニコニコしていらっしゃいます。是非、街中で見つけてあげてください。勿論、通常はちょんまげはしておりませんが、、この笑顔が特徴ですからっ。話かけて、ダジャレが返ってきましたら、それはゼッタイ吉川さんだと思います。

吉川事務所公式ホームページ

北野監督作品の現場レポートなどもあり、楽しいですよ。是非覗いてみてください。


『CASTING』
~吉川事務所海外部門~

外を意識され、5カ国語に解説されているパンフレット。中味もカッコイイ仕上がりでした。クリックしますと中味がちょこっと見られます。

シナリオ・センターのホームページ

吉川さんがライターと監督の良い出逢いの場を作れるようにガイダンスを行っている学校です。ジェームス三木、内館牧子、鈴木光司、林海象監督など沢山の才能ある方々を輩出しています

(※1)忍ぶ川…1972年製作。監督は熊井啓。原作は幻の企画といわれ映画化の話が出ては消え、やっとこのほど11年ぶりに映画化の話となったものである。原作は三浦哲郎の同名小説。第44回芥川賞を受賞。脚本は長谷部慶治と熊井啓。

(※2)8月の濡れた砂…1971年製作。藤田敏八監督作品。高度成長期前の70年代初めの永遠不滅の青春映画。8月の海水浴場で理由もなく、青春をエスカレートさせる大人でも子供でもない思春期時代。彼らの苛立ちを大ヒットした石川セリの主題歌と共に描いた、見る人の心に突き刺さる傑作。
(※3)東京物語…1953年製作。小津安二郎監督作品。誰もが知る名作。周吉(笠智衆)とみ(東山千栄子)の老夫婦が尾道から20年ぶりに子供達を訪ねて東京にやってくる。