vol.8 照明 矢部一男さん

さて、今回は『照明』の矢部一男さんにご登場頂きました。矢部さんの茶目っ気ぶりが伝わるといいのですが…。お楽しみに!!


【略歴】
1936年東京都生まれ。1955年、 日活撮影所技術課照明係入社。78年第一回照明技師担当(『ひそかな愉しみ』武田一成監督)。84年、日活を退社フリーになる。

【主な担当作品】
1978年『ひそかな愉しみ』
1980年『月光仮面』
1983年『家族ゲーム』
1985年『それから』
1986年『時計』
1988年『木村家の人々』
1988年『Aサインデイズ』
1989年『天と地と』
1992年『ミンボーの女』
1993年『大病院』
1995年『渚のシンドバット』
1996年『月とキャベツ』
1998年『ホームシック』
1999年『はつ恋』
2000年『日本の黒い夏-冤罪-』
2000年『ハッシュ!』
2001年『ピストルオペラ』
2001年『海は見ていた』
2003年『天国の本屋~恋火』
2004年『雨の町』
2004年『オペレッタ狸御殿』
など

【受賞歴】
『それから』で日本アカデミー賞最優秀照明賞などを受賞。 又、『天と地と』で日本アカデミー賞優秀照明賞を受賞。1992年から日本映画テレビ照明協会(JSL)の理事を務め、現在に至る。

 
照明の仕事を始められたきっかけは何だったのでしょうか

もともとライトが点いたり消えたりする事や物に光を当てると表情が変わったりする事に興味があったんですね。それで、成城にある世田谷工業高校の電気課程に進んだんです。母方の祖父が滋賀県の八日市で映画館をやっていた事も関係あるかもしれません。昔の田舎の映画館というのは、住まいと劇場が一緒になっていたんですよ。廊下を隔てた向こう側に、もうスクリーンが見えるんです。子供の頃、疎開していたその家で、昔の洋画をよく見ていました。それに、中学・高校時代もやたらと映画を見ていましたね。当時、俳優になりたいと思った事もあったけれど、一寸無理そうだからスタッフになりました。(笑)

今までに携われた作品はどのくらいあるんですか

助手から数えると全部で386本…かな。技師として担当したのは162本です。日活技術課照明係として日活に入ったのが昭和30年の3月3日…だから、もう仕事を始めて49年目になります。一番多い時で撮影所には照明部が120人いたんですよ。当時は月に4~5本は作っていましたねぇ。一年に10作品以上就いたこともあり、今考えると一体どうやっていたのか不思議なくらいです。(笑)

どうやったら照明の仕事に就けるのですか

僕は、日活芸術学院で照明部志望でやる気のある有望な生徒を見習いで就けたりする事が時々あります。見習ですからお給料は出ないけれど、プロの現場で色んな勉強が出来ますよね。最近は女性も増えてきました。女性でも全く差別はしません。向こうもそれを望んでいますしね。始めは全然出来なかった人がどんどん力をつけていき、一人前になってゆくと、やっぱり嬉しいものですよ。

照明の仕事は私には難しく見えますが、どうやって技術を身につけるものなんでしょうか?照明の仕事について教えて頂けますか

ライティングには方程式はないけれど、ある程度決まった基礎はあるんです。例えば設定が昼間で窓がある場所には、表からの明かりが入るじゃないですか。夜ならば上からの電灯の明かり。それが時代劇であればロウソクや行燈(あんどん)の明かりになりますよね。そういう基本的なライティングの仕方がまずあります。でも、それを無視して自分の好きなようにライトを当てるのが楽しいんですけれどね。

照明は感情を表す事も出来ます。例えば(※1)エフェクトフィルターを使用する事によって「安らぎ」や「くつろぎ」などの雰囲気を"緑色"で、"紫"ならば「神秘的感じ」や「不安」を表す、"赤"は「興奮」や「怒り」を表現するとか。

"寂しいシーン"を一つ撮るにしても色々あります。照明を暗くして寂しさを表現する方法もあるけれど、逆にすごく明るくして顔だけ暗くするとかね。シーンの中味と同調させるか反対の方がいいのか、全体のトーンを考えるんです。"狙い"をつけてね。まぁ、失敗しても"狙い"とか言うんですけれど。(笑)クランクイン(撮影開始)の前に全体的な事は見えていますけれど、実際にロケハン(撮影現場の視察)をしてから決めたりもしています。

それから映画全体で"ラフなシーン"と"メインのシーン"で強弱をつけますね。そうでないと、一番表現したいポイントのシーンが浮き立って来ないんです。それにずっと緊張してやっているのは疲れちゃうでしょう。(笑)

大切なのは何を監督とカメラマンが狙っているのかを考えるという事なんです。その為には台本をよく吟味して、把握する必要があります。監督の要望にいつでも答えられるように引き出しを沢山持てるといいでしょう。照明はただ「光を当てる」という訳ではないんです。映画を見たお客さんが感動してくれるように"光で表現・演出をする"事なんです。

例えばカメラがここにある"ペットボトル"を狙っているとする。"ペットボトル"の何を撮ろうとしているのか。そこに描かれた「文字」がその画のテーマであるならば、「文字」に光を当てなければいけないですし、その場合、文字以外の背景は暗部でもいい訳です。ラッシュ(スタッフ試写)での仕上がりはだいたいいつも予測した通りですが、時々「こんなに明るいの!!」と驚く事もあります。そういう反省点はありますが、その時は人には言わないですよ。(笑)

映画の場合、フィルムの(※2)色温度とライトの色温度が仲良くならないと良い色が出ないんです。逆に狙いでわざと合わないにする事もありますけれど。ライトには(※3)HMIライトや蛍光灯ライト、(※4)タングステンライトなどがあります。

どんな人が照明の仕事に向いているのでしょうか

「カンがよい」事も照明部にとっては大切な事ですよね。言われた事だけをやるのではなく、いつも1つや2つアイデアを出せるといいと思います。「カン」は勿論持って生まれたものもありますけれど、覚えようという意欲があれば磨かれてゆくものだと思います。それから健康管理も大切な要素の一つでしょう。撮影の時は風邪など引いていられないですから。

他には、コミュニケーション力があることも大事かな。自分だけ突っ走ってもダメですからね。普通映画の場合、助手さんは6人、テレビでは3人就きます。照明の当て方にも"クセ"というものがありますから、僕をよく理解しているチーフといつも一緒にやっています。優秀なチーフとセカンドが居れば鬼に金棒ですからね。

失敗した事などはありますか
勿論助手時代はありましたよ。集合場所を間違えたり、(※5)2重から落ちたりね。(笑)もし、2重で寝ている人がいたら、「おい!!」なんて声を掛けて起してはダメです。慌てた拍子に2重から落っこちたりしますからね。そういう時は長い棒で突っつくんです。(笑)

いたずらもよくしましたね。(※6)ソーラーライトのレンズでおもちや薄く切ったさつまいもを焼いたり。セット中にいい匂いがしたからばれちゃって、皆に笑われて分けた事がありました。(笑)

辞めたいと思った事もありますよ。撮影が終って皆が明るく「お疲れさま」と帰ってゆくんですが、照明部は後片付けがまだあるでしょう。泥でぐちゃぐちゃになりながらコードを巻いていると何だか惨めになったりしてね。でも負けちゃいけない、仲間がいると思い頑張れましたね。

普段の生活で照明とか気になる事はありますか
それはありますね。家にいても「あれ、こっちの方がワット数が多いのに今日はいつもより暗いな」とか「(※7)フリッカー起きてないよな」とか。(笑)トイレはタングステン、字を書いたりパソコンの部屋には蛍光灯の方がいいかな、と。

うちは、メインの部屋はタングステンにしていますよ。だから外から見ると他の家と色が違います。囲炉裏付きのテーブルを買ったので、その方があったかい感じが出るかと思いまして。(笑)

そうなんですよ。そうやってライティングで「あったかい感じ」も出せるんです。例えばお寿司屋さんは、まぐろが美味しそうに見えるようにタングステンを使っていますし、店などの夜のウィンドーはタングステンと蛍光灯を上手く使っています。赤とか紫などの原色を訴えたい所はタングステンですね。吉野家さんなんかも見ると、タングステンと蛍光灯を混ぜていますよ。コンビニは普通蛍光灯ですが、雑誌のところだけタングステンが当たっていたりする事もあって、カッコイイなと思います。駅にいても、「あの長い蛍光灯を映画に使ったらどうかな」と考えて、「でも持ち運びが出来ないからダメか」と思ったり。(笑)そんな事を考えていますね。

一番楽しい事はなんでしょうか

やっぱり自分の好きな事を皆でやる、という事でしょうか。好きじゃないと出来ないですよね。お金の為じゃない。好きだから、全てが楽しい事につながるんです。色んな若い人との付き合いや話は面白いですよ。僕の知らない新しい歌手や俳優を知っていますし、スタッフ皆と一緒にいると色んな事に興味が広がります。

そして勿論、俳優さんに会えて、ライトを当てる楽しみがありますよね。ライトの当て方一つで全然違う顔になったりするんですよ。こうした方がいいかな、とか新しい事を色々考えます。

最後にメッセージをお願いします

映画を見にいらっしゃるお客さんは、俳優さんとか話の内容とか、監督目当てだったり、友達の口コミで劇場にいらっしゃったりするんでしょうね。照明やカメラがどうだった、という事は要素にはならないと思いますが、映画が終ったあと、一つでも「あのシーンの照明はどうだった」とか「カメラはこうだった」とか何か印象に残るものがあって、批評してもらえたら嬉しいですね。そして、折角いらっしゃるのですから、やっぱり楽しんで欲しいな、と思っています。

インタビュー後記

矢部さんは、 茶目っ気たっぷりで遊び心がある方です。そして好奇心が一杯!!インタビューの日も「今、実はパソコンに興味があるんだよ」と線の沢山引かれた勉強中のマニュアル本を見せてくれました。そんな風にいつもアンテナを張って「わ くわくすること」を次々に受信してしまいます。

そう言えば、10年以上前、まだたまこがスクリプターの見習いだった頃、今と変わらず敬語で接してくださっていた事を思い出しました。しみじみ素敵な方が周りにいるなぁ、と感じる今日この頃です。

日本映画テレビ照明協会サイト

矢部さんが携われた本

『映像クリエイターの仕事』
~未来を創る君たちへ~

新時代を担う若き映像クリエイターへ。独創的な映像のスペシャリスト=プロデューサー、シナリオライター、ディレクターを育成する少数精鋭の実践塾《映像塾》の講師陣による講義集。深作欣ニ、崔洋一、阪本順治、志賀葉一、矢部一男、野沢尚など第一線の方々の言葉が込められています。

発行元 : シネマハウス
定価 : 2200円 
電話 : 03-3358-4155

同じシネマハウスの本
『Movie Gong』
韓国スター美の饗宴
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(※1)エフェクトフィルター…カラーフィルターともいう。ライトに色付きのフィルターをのせる事で照明に色をつける事が出来る。

(※2)色温度…光の色を表すのに使用される値のこと。液晶の白い色がよく見ると青みがかっていたり、赤みがかっていたりするのはこの色温度の影響にによるもの。
(※3)HMIライト…ライトの一種。太陽光に一番近いライトと言われている。
(※4)タングステンライト…蛍光灯と違い暖色系の色合いが出る電球。トイレや雰囲気のあるお店などでもよく目にする。※この言葉自体は、金属の名前でスウェーデン語で「重い石」を意味するという。
(※5)2重…セットを建てた場合、通常その建物の上には天井がついていない。その部分に2重と呼ばれる足場を組んで、照明のライトを上から当てたり、録音のマイクを差し出して、音を録ったりする。
(※6)ソーラーライト…ライトの一種。明るく、より長く光を保つ。デバイダー(羽根・正式名称はバーンドア)がついていて、それを開閉する事で、いらない光を大まかにカットしたり、フィルターを張ったりするのに使う。
(※7)フリッカー…不連続の明滅光のちらつきの事をいう。蛍光灯が切れかけてきた時などによく、チラチラ明かりが点いたり消えたりする状態。