vol.20 製作経理 根津奈都子さん

さて今回は「製作経理」の会社、(株)エンターテインメント・パートナーズ アジアの社長でいらっしゃる根津奈都子さんにインタビューしました。訪れた九段下のオフィスは窓から緑がたくさん臨めるステキなオフィス。その上、根津さんがキュート。「インタビューなんて緊張しちゃうな~」と笑いの絶えない楽しいお話が聞けました。

ちなみに根津さんが以前にインタビューされた記事をインターネットの中に見つけました。そのバイタリティ溢れる行動とそれに反する恥ずかしがりやの部分の両面を持つ根津さんにたまこはとっても惹かれました。よろしければこちらもどうぞご覧下さい(vol.33上から三つ目の記事です)
http://www.yanoresearch.jp/pdf/teikan/venture/VentureReport-08.pdf


【略歴】
1998年「不夜城」
1999年「リング2」
1999年「黒い家」
1999年「死国」
2001年「冷静と情熱のあいだ」
2001年「陰陽師」
2001年「DOLLS」
2002年「ピンポン」
2002年「Lost in Tranlsation」
2003年「座頭市」
2004年「Grudge(アメリカ製作版『呪怨』)」

製作経理というのはどういうお仕事なんですか

「製作経理」という言葉は多分アメリカの《プロダクションアカウンタント》からの直訳だと思います。例えば普通、会社には「経理」がいますよね。映画の製作会社にも勿論、その《普通の経理》はいるんですが、《作品ごとの常駐の経理》がいないんです。それで私達のような《現場専門の経理》が必要になる訳です。

私達は予算が変わってゆく過程もインボルブさせてもらいます。例えば「ロケ」か「セット」のどちらでやるか、ずっともめているところなどはポイント点になってくるんですよ。コロコロ変わる予算に「まずい方向に進んでいるな」とか「思っているのと違うところでお金がかかっている」という事が分かってきます。ラインプロデューサーにとっては、予算内にうまくはめる事が一つの評価でもありますから、オーバーの理由、追加出資が可能かどうか、ダメな場合は何処を削るか…など細かいコストレポートを出してゆく事で早い段階で色々な事がわかるようになるんですね。

アメリカでは弁護士や製作経理がプロデューサーになってゆく事がよくあるんですよ。裏の世界を知っているからかもしれませんね。

予算は大雑把に振り分けるものなんですか

普通、予算は単価×数で細かく出します。お弁当でしたら、朝・昼・晩で値段を変えれば正確な予算が出ますよね。勿論、大まかに出す部分もありますけれど。

このオフィスで通常は仕事をしているんですか

はい、でも現場にもよく行きますよ。本当は現場に机を持ちこみたいぐらい。(笑)実は現場の雑談から拾ってくる情報が一番大切なんです。

経理の仕事をする前は確か現場の通訳もしていたんですよね

いや~、なんちゃって通訳だったんですよぉ。(笑)名古屋の大学を卒業してから、派遣会社に登録していたんです。偶然、『ミスター・ベースボール』の現場に出る機会が出来て、その後、立て続けに何故か3本映画の現場に出る事になったんですね。その時はまさか映画の仕事を一生やるなんて考えもしなかった。(笑)

でも、25才頃に就いた『スリーニンジャーズ』というアメリカ映画で韓国人の監督に「君は何がやりたいんだい?映画をやりたいなら名古屋じゃだめだよ。東京に行かなくちゃ。それに何にでもつぶしが効くのは、お金の流れを知る仕事なんだよ」と言われて、それが私をこの仕事に駆り立てましたね。数学とかは大嫌いでしたけれど、たまたま暇つぶしにいった会計の学校がすごく面白かったんです。

「経理の面白さ」というのは、《経理の仕事》、それ自体が面白いわけではないんです。その経理の部屋に集まってくる情報の多さが面白かったんですよね。《お金》って人間関係から現場のたいへんさ…何から何まで影響しているんですよ。それぞれの部署のトップの予算の取り合いや攻めぎ合いもありますし、録音部が使うダットテープが幾らか等、ありとあらゆる部署に精通しなければいけないんです。ものすごく勉強しないとダメなんですけれど、そこが面白い。

これなら大好きな名古屋を離れて、嫌いな東京に出てもいい、そして製作経理の会社に入ろうと思ったんです。でも、日本にはそんな会社がないと出てきてから初めて知って、どうしようと。(笑)勉強したいけれど、教えてくれる人がいなくなってしまったんです。それでまずはプロデューサーのところで勉強しました。

その後、アメリカに渡り、その経理ソフトの講習を受け、ライセンス契約をして会社を起したんですよね。すごい!!

いや~、すごいのは私じゃなくて、そのアメリカの会社ですよ。見ず知らずの日本女性にライセンスを出してくれたんですから。(笑)

当時、映画製作に「経理の仕事が必要」という事がまだ考えられなかったんです。でも何億という製作費を動かす訳ですから「直感」と「常識」で考えたら、必要に決まってる!!って。(笑)私自身は、本当はめちゃくちゃ石橋を叩く性格なんですよ。でも、その時は何も不安がなかったですね。「道具(ソフト)が必要なんだからゲットしなくちゃ」って。

会社も作ろうと思っていたわけではなかったんです。ただ、個人が億という大きなお金を預かる事に製作会社がやっぱり不安になったんですね。何かあった時に責任追及が出来ない、という事で。それで5年前に会社にしました。

映画の予算項目や領収書は莫大な数です。Exelでは追いつかない。市販の経理ソフトでも無理でした。ライセンスを取ったそのソフトは映画用レポートにも対応しているので便利ですが、英語なんですね。ですから今後、市場が増えてゆけば、日本語版も作りたいんです。

製作経理に向いているのはどんな人ですか

お金と数字に強い事は必要かもしれませんが、簿記の基礎知識があれば後は勉強してゆくので、大丈夫だと思います。それよりもっと大切なのがペラペラ喋らない事ですね。ほとんどの情報が人に言ってはいけない秘密事項なんです。例えば、撮影、照明機材のレンタル料や現像、フィルム代…この単価で出したという事を他で知られたくない場合もあります。ですから、私達が別の人にポロッという事は絶対にしてはいけない事なんです。

海外との作品も多いので英語が出来れば、尚便利かもしれませんけれど、別に出来なくても大丈夫ですよ。これからは映画製作の現場も分業化が進むと思うんですね。だから言葉が出来る人は言葉のプロであり、経理は経理のプロであればいいと思います。私達に大切なのは、帳簿やコストレポートの正確さな訳ですから。製作経理大募集!!と書いておいてくださいね。(笑)

面白い点はどんなところでしょうか

必要な時に必要な情報をアウトプットしてあげられる時ですね。プロデューサーや他との攻防戦もありますから、そんな時に色んなパターンでレポートを出したり、シュミレーションをしてあげられる。頼られている時はやりがいを感じます。

今でこそ少しづつ理解されるようになりましたが、会社を始めた頃は「予算は頭の中に入っているし、分かっているんだからレポートも経理もいらないよ」とよく言われました。少しづつ理解してもらえるようにじっくりと説明し、時間をかけてきました。

確かにプロデューサーの頭の中にほとんどの予算については把握されています。でも、それでも漏れる事があるんですね。そういう点をいち早く察知して、ドツボに陥らないようにしないと、結果的に10倍、20倍とお金にリンクしてくる大きな問題になるんですよ。

今後の目標はなんでしょうか

会社としては、映像を中心としたエンターテイメント産業の全ての経理を見れるようになりたいですね。予算の管理ならあそこに頼もう、と思われる組織になる事です。そして、その経理ソフトだけを貸すとか使い方のトレーニングをやるという事も出来るといいのかな、と思います。

アニメなどの製作経理もやってみたいですが、一から作業や専門用語について勉強しなければいけない事が多いので、今は余裕がないんです。でもいつかはやってみたいですね。

個人としては…イギリス映画の現場が見たいです。イギリスの現場で働いてみたい。(笑)マギースミスに会いたいんですよ。だけど、そんな事言ったら、うちの社員がびっくりしちゃうかな。だから今は無理ですね…10年後でいいです。(笑)

メッセージをお願いします

このインタビューを受けてきた方みんなに共通しているかもしれませんけれど、皆さんあんまりギラギラした感じがしないですよね。どちらかというとフワフワした感じ。(笑)でも、こうして残っている人にはやっぱり共通点があると思うんです。それは「向上心」だったり「すき」という気持ちだったり、「探求心」を持っているという事だと思うんですね。きっとどんな仕事でもそれさえ持っていられれば、楽しいですし、それが生きてゆく上で大切な事なのかもしれません。結局は自分との闘い…ですものね。

インタビュー後記

インタビューで訪れたオフィスは清潔感のある明るいステキなところ。(ちょっと働いてみたくなるぐらい…)最近、気分転換も兼ねてブラインドをビビットな新しい色にしたそうです。その中で女性社員の方々が一生懸命働いていらっしゃいました。

根津さんの話の中で他にも印象に残ったことがあります。「人は教えて育てようとしても無理なところがある。でも、良い器・環境を与える事は大切だし、これからもそうしてゆきたい」という言葉。あとは本人の意思にあると言います。きっと、根津さんも色んな方に環境を与えてもらい、今がある事がわかっていらっしゃるんだな、と思いました。だから自分が出来ることはしてゆきたい…と思われているのではないかと。そんな風に感じました。

根津さん!!今度はもっとゆっくりご飯でも食べながら、楽しいお話聞かせてくださいね


九段下のオフィスです