vol.19 殺陣師・スタント 二家本辰己さん

さて、今回は役者さんの代わりに高いところから飛び降りたり、転がるアクションシーンや殴り合いなどを仕事とする「殺陣師・スタント」の二家本さんにインタビューしました。ケガが付きものの仕事ですが、それでやめたいと思った事はないそうです。今度、映画を見る時は是非殺陣やスタントにも注目して見てみてくださいね。


【略歴】
1980年「野獣死すべし」
1986年「ア・ホーマンス」
1991年「王手」
1991年「いつかギラギラする日」
2002年「DOLLS」
2003年「座頭市」
2004年「北の零年」
2004年「血と骨」


「スタント」と「殺陣」には、どういう違いがあるんですか

「スタント」は大きく言うと役者さんの代わりに…例えば、何処からか落下したり、ガケを転がったり、車にはねられたりとか…そういう事をやるんですね。「殺陣(たて)」は人を殴ったりする芝居の“アクション”を決めたり、時代劇の剣さばき…とかですね。

どうしてニ家本さんは殺陣師になったんですか

僕らの若い時は丁度、千葉真一さんの『キーハンター』が流行っていた時で、「こういうアクションをやりたい」と思ったんです。それで17才の時に、JAC(ジャパンアクションクラブ)入りました。

ケガがつきものだと思うんですが、身体は大丈夫なんですか

骨折やケガはやっぱり多いですけれど、皆、本番OKが出るまでは黙っていますね。その時は痛くても「大丈夫です」って言うしかない。この前も女性のスタントが終ってから「脱臼したみたいだから、引っ張ってください」と僕に言って来た。病院で調べてもらったら、実は折れていたんですよ。結果的に引っ張らなくて良かった。そういう事はよくあるんです。だから何かあった時は素人が現場で適当に処置しない、専門(病院)にまかせる事が大切ですね。ケガの場合、知ったかぶりが一番危ないんです。

練習とかはどうしているんですか

身体は鍛えていますけれど、アクションは「水もの」なのでやってみないと分からないところも結構あるんです。勘も大切ですしね。でも、この前、車のイベントショーでザイル(綱)を使ったショーをやったのですが、そういう「新しいもの」をやる時はやっぱり練習しますよ。永福町の近くの公園とかで。一般の方もいるので、何をやっているんだろう、と思われているでしょうね。(笑)

準備万端でも、車の爆破とか本番1回しか出来ないスタントもありますよね。プレッシャーは感じませんか

ありますけど、カチンコが鳴ると何故かやっちゃうんですよ。スタントの“性(さが)”なのかなぁ。(笑)怖いと思うような事があってもね。

殺陣には「顔を見せないようにする倒れ方」とか「本当に殴られているように見える方法」とか色々ありますけれど、やっぱり基本的は当てないと殴っているようには見えないんです。だから僕は首から下は実際に蹴ったり、殴ったりしますよ。勿論、防具はつけますが。昔は防具もあまりなく、ケガをする人が多かった。それで「あてもの」を考えるようになっていったんです。

昔、『王手』(阪本順治監督)という作品で足を折って、病院でギブスをしてもらった時、「すぐに来て」と『いつかギラギラする日』(深作欣ニ監督)の現場に電話で呼ばれました。その時は、急いで自分でギブスを切って、テーピングをして行きましたよ。深作監督が「大丈夫か」と言うので「ハイ」と言ったら「じゃ、走ってくれる?」って。(笑)

だけど、やめたくなった事はないんです。いやになるのは、役者で出た時にセリフを間違えたときぐらいかな。(笑)

台本には、殺陣について「殴り合う」とか抽象的に書いてある場合も多いですよね。そこからどうやって殺陣の内容を決めてゆくんですか

それはやっぱり台本を読んで話(芝居)に合わせてゆきますね。意味もなく、殴り合いだけ派手にしても仕方ない。例えば普通の男同士の喧嘩の設定とボクシングをやっている人の設定では、出す技も違いますよね。

悲しければ泣くだろうし、怒れば殴るかもしれないし「何か」理由がその前に起こらなければ殴れないですよね。だから芝居が大切なんです。時々、監督でもアクションシーンだけに力を入れる方がいますが、アクションは全体の芝居の中の一つの要素なんですね。感情が活きる事が大事だと思うんです。

殺陣はいつもだいたい2~3個はパターンを考えておいて現場に臨みます。カメラポジションやカット割りなど「どう撮るか」とも関係しますしね。昔、松田優作さんに「おい、二家本、今日は俺のを見てろ」と言われた事があります。その時、優作さんは派手なアクションとか殴りはやらなくて、言葉も発しない『普通の芝居でのアクション』を見せてくれたんです。芝居が大切な事を教えてくれましたね。

優作さんには『探偵物語』の時に話しかけられたんです。自動二輪の話しになって「免許持っているのになんで買わないんだ」と聞かれて「(ゼスチャーで自分の頭を両手で握る)頭(コマネチのポーズように股間に手をもってゆく)金がないんです」と言ったら「お前、面白いな」と。それで『野獣死すべし』や『ア・ホーマンス』でも呼んでくれました。「あいつはいい殺陣師になる」って他の人に言ってくれていたんですね。

思い出深い事はどんな事ですか

仕事を始めて5,6年目の頃、『月光仮面』をやった時ですね。ヘリコプターから落下する設定で、実際にヘリコプターにぶら下がって離陸したんです。100メートルぐらいあがったところで、キャメラマンが「落ちろ、落ちろ」っていうんですよ。だけど、下を見たら落下用マットがマッチ箱ぐらいの大きさにしか見えない。(笑)結局飛び降りれなかったんです。後で聞いたら、僕が操縦士さんの腕を掴む設定で引っ張っていたから、操縦士さんも怖くてどんどん上昇しちゃったらしいんですね。

ヘリコプターって地上50メートルの高さでは何かあった時に立て直せないらしいんですね。100メートルだと立て直せる。だから操縦士さんもつい上ってしまった。本番は25.26メートルから飛び降りましたが、それでも着地した時に血を吐きました。

あとは『流星人間ゾーン』の時に5,6メートルの高さの土手の上から飛び降りるというのをやったんですが、やってみたらすごく痛かったんですよ。後日、ラッシュを見ると足と地面のアップしかカメラフレームに入っていなくて、「これだったら5,6メートルもある土手上からでなくても、どこでも良かった。その場でジャンプでも良かった!!」なんて事もありましたね。(笑)

それから10メートルの高さの火の見櫓の上からスタッフが持つ雨戸を突き破って落ちるというのもやりましたね。当時は怖いと思う事はあっても死ぬとは思いませんでした。それだけ自信があったのかもしれません。

これからやってみたい事はなんですか

『新しい時代劇』をやってみたいですね。出来たら一度ハリウッドに行ってみたい。アメリカではアクション監督がやっている仕事なので、また日本とは全然違うでしようからね。

最後にメッセージをお願いします

映画をもっと「文化」にしてゆきたいという気持ちがあります。見る方が増えれば、必然的に「文化」になってゆくのではないかと思っています。いいも悪いも含めて、まずは見て、評価してもらわなければいけないですからね。

それから、この冬公開の映画『血と骨』を劇場で是非みてほしいですね。崔洋一監督のパワーと主役のビートたけし さんの迫力、殺陣も汗水流して作りました。武さんが喧嘩、セックス、金儲けしか考えていないものすごく悪い男の役なんですけれど、映画の中で一箇所だけ優しいところを見せるんですよ。吹替えもほとんどせず、身体を鍛え、体を作っていました。共演のオダギリジョーさんが「怖い。本当に殺される気がした」というぐらい役者さんたちの気が入っているので、見て損はないと思いますよ。

インタビュー後記

こんな事書いたら怒られちゃうかな。
例えば見た目が怖い人って時々いますよね。だけど、笑うと「こんな可愛い顔しているんだぁ」と気づく人…二家本さんはそんな方です。ものすごく物腰が優しくて、誰に対しても丁寧。そして、とっても照れ屋なんです!!誉められると「いや、いや、いや…」と後ろに下がってゆき、恥ずかしそうに小さくなります。でも、仕事になると別。やっぱりプロだなぁ、と思いますね。

「アクションはなまもの」。どんなにテストをしても時々、思いもよらない事が起こります。スタッフの私達がドキッとする事もあるぐらい。監督や作品の要求に答えようとして、普通の人には出来ない危険な事をやってくれるスタント。スポーツ選手に通ずる一本筋の通ったものを感じさせてくれます