vol.16 衣裳 宮本まさ江さん

さて、今回は衣裳は勿論、プロデューサーも劇場経営もしたことがあるパワフルな宮本まさ江さんにインタビューしました。自分の衣裳会社を持ち、社員を抱える衣裳界の異端児だと思います。現在も森田芳光監督の『海猫』、行定勲監督の『北の零年』など二つの作品を抱えている中、北海道から一日だけ上京してきたところを無理やり捕まえてインタビューさせて頂きました。お話を伺って、感じたのは「とても気さくで精神が自由な人」ということ。それでは、どうぞ。

【プロフィール】
千葉県生まれ。1985年第一衣裳入社。その後、フリーになり、88年より年平均4本以上のペースで、主に独立系映画の衣裳に携わる。CM、テレビドラマ、舞台でも多くの作品を手掛ける一方、『ざわざわ下北沢』をプロデュース。主な映画作品として、『夢二』(90)、『寝盗られ宗介』(92)、『顔』(99)、『GO』(01)、『青い春』(01)、『ハッシュ!』(01)、『わたしのグランパ』(03)、『阿修羅のごとく』(03)、『赤目四十八瀧心中未遂』(03)などがある。


どうして衣裳の仕事をするようになったんですか 元々、岩波映画にいて、経理やフィルムを運んだりする仕事をしていたんです。でも、ずっと「劇映画をやりたいな」と思っていて。丁度その時エレクトーンをやっていたんですが、そのお友達のダンナさんがたまたま『ハングマン』のスチール(写真)の仕事をしている方だったんですね。「じゃ、現場に見学にきてみたら」と言われて、行ったのが始まりです。スクリプターも勧められましたが、自分にはやっぱり衣裳がいいと思い、(※1)【第一衣裳】を紹介してもらいました。

実は、うちは親父も親父の兄弟も祖父も皆、洋服屋。子供の頃よく手伝いをさせられたので「洋服関係の仕事だけはしたくない」と思っていたんです。(笑)母方は床屋さんだったりと“職人気質”の家系でしたね。

映画は親父が好きだったので、いつも土日は見にいってました。日活の映画も好きで、一人でも家の隣の映画館に行っていましたよ。

衣裳の仕事の面白さはどんなところにありますか

《衣裳の演出》をする点ですね。人物像を作ってゆくところ。元々、洋服屋の娘だから、やっぱり洋服が好きなんです。衣裳は、場面場面で見せ方や仕掛け方が違います。俳優さんの個性の《良さ》を出して、欠点を隠したりもしますし、映画の色合い的・全体のバランスも見ます。逆に役柄によっては衣裳で欠点を出した方がいい場合もありますし、監督のカラー、クセ、なども合わせて見ないといけません。

私は(※2)【衣裳合わせ】が好きなんです。自分でプランニングをして、キャラクターを設定して、監督に衣裳を発表する。用意した衣裳がストレートに決まったり、上手くいった時は楽しいですね。黙ってうつむかれる事もありますけれど。(笑)

台本を読んでいるとワクワクしちゃうんですよ。どんなプランにしようかイメージを膨らませるのが好きなんです。こういう性格だからこういう服は着ないだろうとか、街を歩いていてもこういう服だったら、こういうセリフを喋ってもおかしくないな、とか。

宮本さんは本当にやっていらっしゃる仕事の範囲が広いですよね。普通の衣裳さん以上…サングラスや小物も作ったりされますものね

昔から、洋服に対して持ってくる小道具の靴とかアクセサリーとか鞄は衣裳と一体のものだと思っていたんですが、当時は衣裳と小道具は別物という考え方があったので、「なんで一緒じゃないんだろう」という気持ちがあったんですね。それで、全てをトータルにコーディネートする衣裳のスタイルを作るようになったんです。今ではだいぶそういう風にやる人も増えましたけれど、当時はまだいなかったんですよね。

【第一衣裳】に入って6年目ぐらいの時、『夢二』で荒戸源次郎さんに「フリーになったらどうか。お前ならやっていけるよ」と言われました。自分でもありものではなく、衣裳のデザインをしたいと思っていた時でした。本当は辞めたら、テキスタイルの学校に行こうと思っていたのですが、結局は持っている感性の問題だと思い、自分でデザイン画を書いて自己流、独学でやってきました。書いてゆくうちに自分の作品が出来ていった感じですね。勿論、書物などでは勉強したんですけれど。

フリーになって最初に荒戸さんに呼ばれ、坂東玉三郎監督の『外科室』をやりました。時代物を学ぶとてもよい勉強になりましたね。明治の古い着物を集めたり、病院の看護婦さんの衣裳を何回も洗ってつめさせて古っぽい素材に見えるようにしたり。また、阪本監督の『王手』では大阪のジャンジャン横丁の人達が実際どんなものを着ているのかリサーチしにいったりしました。洋服もそこで売っている素材の地のもので作らせてもらって、リアルに見せる勉強をさせてもらいました。

『12人の優しい日本人』では登場人物が12人しか出てこないので個性を表す事を学びました。役者と劇中キャラクターをどうすり合わせてゆくかを考えるんですね。毎日稽古を見に行きました。この作品では、演出の中に入って行く衣裳の面白さについて学びました。

やりたかった事はフリーになって一年目に全部やらせてもらった気がします。一つ一つの作品によって、図書館で下調べをしたり、演劇を見にいって研究したり、昔の映画を調べたりする事で、自然にテリトリーが増えていきました。

衣裳はどうやって決めてゆくものなんですか

例えば、もう少ししたら公開になる『空中庭園』という映画は心理的・内面的な話だったんですね。母親との葛藤のトラウマを抱えた主人公が幸せな家庭を作りたいと最初は偽装家族を作るんですが、段々と浄化されて本当の母親になってゆく話なんです。その主人公の衣裳はオールピンクにしました。幸せを求める彼女にとって、ピンク=幸せ、と考えて。小泉今日子さんがその役だったのですが、面白いね、と一緒にのって色んな色のピンクを着てくれました。

そんな風に台本の中に、人物像や履歴書を作ります。過去にどんな事をしたかとか、どういう事を求めて生きているかなど人格を分析して衣裳に結び付けてゆくんです。

衣裳は借りるのと作るのとでは、どんな割合になっているんですか

予算にもよりますよね。『青い春』の時は学生服は全部作りました。男の子ばかりが出てきて、普通の学ランではつまらないと思い、3つボタンスーツをアレンジして、黒の中でも深い墨黒(すみぐろ)のものにして。『ナインソウルズ』でも全員おそろいの囚人服にしました。レーヨンの入った面白い素材たったので、今でも背中に刺繍をしてプライベートでそれを着ている役者さんもいますよ。

以前、三谷幸喜さんの東京サンシャインボーイズの舞台『99連隊』をやった時に、面白い素材の服を自分で縫って用意したんですが、役者さんに「これ暑くてししょうがないよ」と言われた事があります。「ごめんねぇ。でも素材重視だから」と言って空気穴を作った思い出が。(笑)素材って大事だと思うんです。今でも、日暮里に面白い素材を探しに行きますし。

どうやったら衣裳の仕事につけますか

私は「やりたい」という思いが一番大切だと思うんですよね。最近よくうちの若い人達にも言っているのは「忍耐力」「向上心」「責任感」があれば何でも出来るということ。「忍耐力」はとにかく何があっても耐えられる力を持つこと、「向上心」はこれをやりたいという気持ち、「責任感」は与えられた事をきちんとやる、という事ですね。私自身がこの3つでここまで来たと思っています。

それから分からない事は「分からないので教えてください」と“聞く勇気”を持つ事も大切ですね。本をよく読んで、創造力を養うことや普通の人達をよく観察するのもいいと思います。学校は基本的な事を学ぶには良いかもしれませんが、結局は現場で“目で見て、身体で覚えてゆく”事になると思います。

映画と舞台とCMは違いますか

「映画」はスタンスが長いですし、「つながり」や(※3)「汚し」もある。現場っていつも何が起こるか分からないから先のことを予測して考えていなければいけない『障害物長距離競争』という感じで奥が深いです。(笑)いつも言っているのは“ソックス一つなくても現場は止まるから”ということ。整理整頓や物の管理は基本ですね。「舞台」も長距離競争ですが、一度衣裳が決まればそれでずっとやってゆく感じがあります。「CM」は短距離競争ですね。それぞれ違いがあって面白いですよ。

今後やりたい事はどんな事ですか

大人のオリジナルブランドを作りたいですね。あと、着物も好きなので、着物をつぶして何か物を作ったりとか。とにかく『作ること』がやりたい!!「欠点を隠したい服のコーディネート考えます」とか。(笑)

若い人へのメッセージをお願いします

生きて行く事に貪欲になってほしいと思います。失敗を恐れずにね。例えば一本の木があって、枝分かれが沢山あったら、信じる道を行ってみるといい。その枝がもし行き止まりになっていたら、またもとの位置に戻ってくればいいんだから。失敗した分、「挫折感」とか「もう一回頑張ろう」とか「努力しよう」とか「勇気」とか、自分の中に生まれるものが必ずある。傷つくことがあっても、自分のプラスになっている。「次」は必ずありますしね。「やりたい」と思う事はやった方がいい。

うちにいる男の子も最初は裁縫もアイロンがけも出来なかったけれど、ワイシャツを何十枚とやって、アイロンの掛け方を覚えていったり、ボタンつけをして全て仕事を覚えていったんだから。好きこそものの上手なれって言うじゃない。何でもやった方がいい。失敗した事で向いていないと分かれば、違う方でもしかしたら合うものがあるかもしれないし。止まっちゃダメだと思う。勇気をもって進んでね。そして、汚い仕事をあえてやるっていうのもいいですよね。

インタビュー後記

宮本さんとお仕事をご一緒させて頂いたのは、もう10年ぐらい前になります。久し振りにお会いした第一声は「たまこちゃん、お互い年取ったねェ」(笑)。こういうざっくばらんな宮本さんが大好きです。こんな事をやりたい、あんな事をやりたい…宮本さんの中に、生まれ続ける好奇心、そして実行する力。

北海道から一日だけのとんぼ返りの多忙の中、「お願い」と無理やり押しかけても「いいよ。しょうがないねぇ」と笑っている。自分のところにきた若い社員たちを「みんなホントいいコたちなんだよ」とおっしゃる。無意識のうちに物事のいい面を見つめている宮本さん。そういえば昔いじわるをされて、後で周りの人に「あんな嫌味気にしない方がいいよ」と言われて初めて「あれって嫌味だったんだ」と気づいた事もあるとか。

宮本さんの止まらない今後をまだまだ見つめてゆきたいと思います。


(※1)第一衣裳…衣裳会社の老舗。日活撮影所の中に会社があります。
(※2)衣裳合わせ…衣裳を決める打ち合わせ。役者さんが衣裳部屋にきて、シーンごとの衣裳を着る。監督やスタッフがその衣裳で行くかなど確認やチェック、話し合いをする場。
(※3)汚し…例えば、撮影ではシーンによって喧嘩をしたり、倒れたりする場面がある。その時に埃や血がついたりする設定であれば、服にそういう「汚し」をつける必要がなる。シーンもバラバラに撮るので、その汚しもあったりなかったりするので、量や場所、つながりを把握していなければならない。