vol.13 音響効果 小島彩さん

さて、今回は『音響効果』の小島彩さんのご登場です。皆さん、音響効果については知っていますよね。SE(サウンドエフェクト)といって、風音や鳥の鳴き声、車の走る音やクラクション、はたまた骨の折れる音まで《音》ならば何でも作ってしまうというお仕事です。そんな仕事をされている彩さんにじっくり《効果音》について語って頂きました。早速インタビュー開始です。


【主な参加作品】
1994年『トカレフ』  
1997年『東京夜曲』  
1997年『東京日和』  
1998年『ジューンブライド 6月19日の花嫁』  
1999年『ガメラ3 邪神<イリス>覚醒』 
1999年『お受験』
2000年『sWinGmaN』  
2001年『連弾』
2001年『非・バランス』  
2001年『真夜中まで』   
2001年『陰陽師』  
2001年『冷静と情熱のあいだ』  
2002年『パコダテ人』  
2003年『船を降りたら彼女の島』
2003年『星に願いを。』
2003年『陰陽師II』
2003年『壬生義士伝』
2003年『新・夜逃げや本舗』(日本テレビ)
2003年『命』※音響効果技師としてデビュー


効果マンになろうと思ったきっかけはなんですか

中学の時に亡くなった父が、《効果》の仕事をやっていたんです。日本で5本の指に入るほどの素晴らしい効果マンだったらしく、お葬式に大勢の方が来てくれたんですね。その時に初めて「こんな素晴らしい人の血を引いているのならば、この仕事をやらなければ勿体無い」と思ったんです。

日活の仕事場にはお祭りで何度か子供の頃に連れていってもらった事がありましたし、「音を作る仕事なんだよ」とは聞いていましたが、本当の父について知ったのは、亡くなった後、周囲の人からだったんです。

どうやってこの世界に入ったんですか

高校を卒業したら入社するのを前提に、学生の時から効果部でバイトをさせてもらいました。当時は初めての女性でしたので、周りも対処しづらかったかもしれませんが、差別はなかったですし、イヤな思いはしませんでしたね。

普通、効果マンになるにはどうすればいいんでしょうか

大体音響の専門学校に行ってから入る場合が多いみたいです。現場で録音を経験してから《効果》を始めた方もいますし。人によって違うかもしれませんが普通「10年で一本立ち」と言われています。その「一本」というのは一応映画を前提にしています。例えばテレビの場合、色々細かい《効果音》をつけても、中々その音がたってこない(聞こえてこない)ので、よく聞こえる目立つ音を中心につけるんですね。でも映画の音の出方は更に複雑なので、普通皆さんが気づかないような小さな音から細かくつけています。

一つの映画にどのくらい効果音ってつけるものなんですか

う~ん、どうなんでしょう。(笑)数えた事ないですね。例えば山のシーンでしたら、まず山のベースノイズ(※1)に幾つか違う種類の鳥とか、木の揺れ、風音など5~6個のSE(サウンドエフェクト)をつけると思いますから、単純に100シーンあるとしたら…600種類ぐらいでしょうか。

…すごいですね。(笑)作業はどんな風にやるんですか。

オールラッシュ(※2)が終ったら、編集したフィルムをタイムコード入りテレシネ(※3)してビデオに落とします。プロツールス(※4)にそのタイムコードを読み込ませて、画と音がずれないように音を貼りつけてゆくんです。作品によって違いますが、2週間から…余裕のあるもので1ヶ月ぐらいかけて音の仕込みをしてダビング(※5)に備えます。

この12年ぐらいでも作業の工程ってすごく変わってきているんですよ。どんどんデジタル化してきています。シネテープ→3/4→DA88(※6)→プロツールスという風に使う機械も変わりました。昔はダビングで『ポン出し』というのがあったんですよ。例えば街ノイズをあるシーンの丁度頭から出す為に前のシーンの画のカット変わりの20コマ前にパンチ(穴)を開けておくんです。その穴が見えたら街ノイズのスイッチを入れる。ポンと出すから『ポン出し』って言うんですけれど。(笑)20コマは一秒弱なんですが、見てスイッチを押すのに人ってちょうどそのくらいかかるんです。でも、私はもっと前から叩かないと合わなかったりしたので「あの役者さんが座ったら叩くぞ」とか画を見てタイミングをはかっていましたね。今では懐かしい作業ですが、シネなどのアナログと今のデジタル、どちらも経験できた事は良かったと思います。

実際の画に合わせて音を作る《生音=なまおと》(※7)ってありますよね。どういう風にやるんですか

例えば《指を折る》という設定だったら、鉛筆とか割り箸を折って、その画にあった「ポキッ」という感じの音を幾つか録ります。それをピッチ(※8)を変えたりして、加工するんです。《人を刺す音》の場合はキャベツを使ったり…靴音なんかも画に合わせて一つ一つ作っているんですよ。生音の作業ではほぼ一度しか画を見ないで音を録るので、感覚や慣れが必要です。最初はすごく緊張しました。今もかな。(笑)その役者さんの靴の種類…例えばヒールなのか、革靴、それとも下駄なのか。床の材質…土とコンクリートでも音は違いますし…その人の体格などにも合わせて音も作ります。若い女の人の靴音が体重の重そうなおじさんの音では合いませんからね。(笑)音はただ出ればいいという訳ではないんです。その人の雰囲気に合った“悲しい足音”とか“嬉しくて跳ねるような足音”…とか色々あるんです。

生音は、現場でSO(※9)を録れなかったものをやる場合が多いですね。茶碗やグラスを置くとか、本をめくる、椅子や鞄のノイズなど色々あります。

仕事で面白い事はなんですか

やっぱり自分のつけた音が反映される事でしょうか。でも、まだ技師としては一本やっただけなので、そんなに余裕はないです。

人の下に就くと勉強になりますよ。ベテランの方が音付けをすると、本当に《白黒だった画面がカラーになってゆく》という感じがするんです。画が生きてくる。綺麗なグリーンや青を入れて“自分の音”を作る。

同じ材料を使っても加工の仕方で、音も変わってきます。それに「こんなシーンにこんな音をつけていいんだぁ」という斬新な発見もありますよ。前に『キル・ビル1』を見にいった時、刀を振りかざすシーンに必ず“キーン”という《おんさ》(※10)の音がついていたんです。刀の動きが止まると音もパッと止まる。それが面白かったので、「自分がやる時も使ってみたいなぁ」と思ったりしましたね。やっぱり他の作品をみたりして、影響を受けたりする事はあります。

初めて技師として担当された『命』(篠原監督)は如何でしたか

技師としては初めての仕事でしたので無我夢中でした。助手とはその責任の重さが全然違い、中々冷静になれなかったですね。(笑)

『命』(※11)はテーマが《生まれてくる人》と《死にゆく人》の話しだったんです。それで死にゆく人には鳥や子供達など逆に明るい雰囲気の効果音をつけるようにしました。外はこんなに明るいのに、この人は死に向かって行く…という事を表現したかったからてす。生命の誕生という事で子供の声を至るところにつけました。公園で遊んでいる子供とか病院で泣いている子供とか…。

私が女性であり、出産も経験していて、女性だからわかる部分があるのではないかと見込まれ、技師として就けさせてもらいました。でもそれ以外は、仕事の上で男女の違いは何のハンデにもなりませんね。

《効果音》は映画の中で、どんな役割を持っていると思いますか

その映画が一番自然に気持ちよく見られればベストだと思うんです。勿論、何か一つ印象に残る《音》が作れたらいいとは思っていますが、お客さんは《音》だけを聞きに来ているわけではないですよね。ですから、《音》を押しつける気持ちはありません。《効果音》はその映画の主役ではないと思っています。縁の下の力持ちとして良い仕事をしたいですね。例えば音楽が入る場所に《効果音》が対抗して大きな音をつける必要はないと思います。“セリフ”と“音楽”と“効果”は一体だと思っていますから。

作業上で気をつけなければいけない事はなんでしょうか

季節が関係する鳥の鳴き声とか銃声、それから年代ものですね。例えばその時代に電車が走っていたかどうか、靴は履いていたかどうか。映画の嘘もありますから常に事実に基づいていなければいけないという事ではありませんが、不安な時は助監督さんに聞いたりします。それに、現場で使った小道具で特別なものは生音の為に借りたりもするんですよ。

いやな事はありますか

いやという事はないですけれども、自分の苦手な作品の時はキツイですね。内臓がグチャグチャのホラー系のものとか。そういう映画をあまり見ていないので、音が浮かびにくいんです。でも、どんな作品にも対応出来るようにそういう事も克服しなければいけないと思っています。

やりやすい監督はどんな方ですか。これからやってみたい監督や作品などはありますか

やっぱり自分にはない“すごい発想”をしてくれる監督と一緒にやるのは面白いですよね。前から一度、森田芳光監督(※12)の頭をかち割って見てみたいと思っているんです。(笑)『39/刑法第39条』の冒頭のシーンで、効果部として臨場感のあるそのシーンにあった“気持ちのいい音”をつけたんですね。でも監督はそうではなくて“気持ち悪い音”…ノイズを突然切ったり、バチバチと入れたり、普通でない“変な感じ”を表現したいといってきて…。そういう発想がすごいな、と思いますね。

後は若い監督とやってみたいです。一緒にこれから何かを作っていける人。やるならやっぱり人間ドラマが好きですね。コメディも《音》で遊べて楽しそうだからやってみたいですし。

同じ女性として聞いてみたいんですけれど、不規則な生活の中で、働きながら子供を育てるのはやっぱりたいへんですか

う~ん、例えば子供が熱を出して保育園から迎えに来てほしい、といわれたりする時はたいへんだったりしますよね。仕事に穴をあけたくない、という気持ちが強かったから。きっとあの時はまだ余裕がなかったのかもしれません。今はもう少し“適当”にやる事が出来るようになりましたよ。(笑)でも、仕事は私にとって大切ですね。仕事をやっていない自分って考えられない。昔の日本のお父さんみたいなんです、すごい仕事人間で。男に生まれた方が良かったのかな。(笑)

メッセージをお願いします

多くのお客さんに映画を見てほしいなぁ、と思っています。音に敏感になりすぎないで、単純に映画を見て「面白かったね」と思ってもらえる事が嬉しいです。


インタビュー後記

『生音』を作る作業によく立ち合ったたまこでした。『生音』をやる時の基本は何だと思います??それは…とにかく何か食べてゆくこと!!何故かというとお腹のグ~と鳴る音まで録音されちゃうからなんです。静かな部屋の中では、皆のお腹の音は勿論、つばを飲む音さえ聞こえます。そういう時に限って、くしゃみも出そうになる。(笑)息を止めたり、お腹を押さえたり…「お腹ってよく鳴るなぁ」なんて変な感心をしたり。そう言えば、今から数ヶ月前にたまたまテレビを見ていたらその懐かしい部屋にTOKIOが来て、生音に挑戦する番組をやっていました。その時に指導していた方も彩さん達が働く「カモメファン」の方でした。生音の部屋はまるでおもちゃ箱をひっくり返したみたいなところ。車のドアもタンスもざるも水がはれる小さな池みたいなのもあるんですよ。(笑)懐かし~い。また突然訪問したいと思います。

効果音を貼りつける作業部屋です。


全て効果音のライブラリーです。6ミリというテープに収められています。

廊下にぎっしりとライブラリーが続いています。何十万と言う音があるんでしょうね

(※1)ベースノイズ…例えばとても静かで音がない部屋だと思っていても、実はその部屋の場所の影響によって、或いは空調ノイズなどとして「音」は存在している。その場所の背景にある基本の音のこと。
(※2)オールラッシュ…バラバラに撮影したフィルムを何度も編集していき、最終的に決定した画のこと。そこから音楽や効果音を入れ、セリフを調節し「音」を整えてく。
(※3)タイムコード入りテレシネ…フィルムで撮影した映像をビデオに映しかえること。その際にタイムコードを記憶させて、その数字をプロツールスの機械に読みこませられるようにし、効果音や音楽、セリフなどを貼りつけてゆく。
(※4)プロツールス…パソコンのソフトでセリフや音楽、効果音など「音」に関して全般的に編集・整理するツール。音が波形として表現され、目で見る事が可能。
(※5)ダビング…フィルムダビングのこと。、セリフや音楽、効果音などを最終的に画に入れこんで映画を完成させる作業。
(※6)シネテープ→3/4→DA88→プロツールス…効果音の仕込み方法の年代別の大まかな流れ。以前はシネテープや3/4ビデオテープに、またDA88ではハイエイト(8ミリテープ)に録音していた。、そして現在はデジタル化し、プロツールスを使用、通常ハードディスクに録音している。
(※7)生音…既にあるライブラリーの効果音を使わずに、その映画のその画に合わせて「生(なま)」の音を録る事をいう。
(※8)ピッチ…音の高さを変えること。上げたり、下げたりする事で変化をつけられる。
(※9)SO…サウンドオンリー。撮影現場などで画は回さず、音だけ(セリフや物音、ベースノイズなど)を録音すること。
(※10)おんさ…絶対音感などを確認するための道具。
(※11)『命』…2003年製作。篠原哲夫監督作品。江角マキコ・豊川悦司が主演した。原作は柳美里の『命』。
(※12)森田芳光監督…1950年東京生まれ。81年に「の・ようなもの」で劇場映画監督デビュー。以後『家族ゲーム』『それから』『(ハル)』『失楽園』『39/刑法第39条』など数多くの話題作を輩出している。